26人が本棚に入れています
本棚に追加
童話
……
温風 だ
あったかい!
私はゆっくりと目を開けた。
車の中?
なつかしい振動音。
というか、おそらく車種がおんなじ。
父と母と私と妹と、
そして、大好きなチロとみんなで出かけた家の車と。
ガラガラとシャッターの閉まる音がして、「時計屋さん」が乗り込んできた。
「毛布があったぞ」
受け取ろうと起き上がり
「えっ」
愕然として胸を隠した。
「私がやるわね」
後ろから静かな声がして、バスタオルの上から素早く毛布を巻いてくれる。
きっと奥さんだ。
時計屋さんと同じ薄茶の目をした、童話に出てきそうなおばあさんだった。
「寒かったわね。もう大丈夫よ」
時計屋さんは頭を拭いたタオルを助手席にかけると、車のドアをロックした。
ハンドルに手をかけエンジンが温まるのを待っている。
コポコポと何かを注ぐ音が聞こえ、私にかけないよう気遣いながら、奥さんが湯気の立つカップを差し出してきた。
「熱いから気をつけてね」
毛布を羽織り直し、私はお茶を受け取った。
最初のコメントを投稿しよう!