チロ

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チロ

「家はどこだね」 「え」 「チロってわんちゃん? 何回も呼んでいたの」 私は喉を震わせた。 「帰らなきゃならんのだろう?」 私は強く(うなず)いた。 「お願いします!」 車が動き出した。 思ったより土地勘があるようで、私の説明に時計屋さんは一度も戸惑う様子が無い。 「犬なんです……。白くてふわふわした、とっても大きな」 「そう。私も犬は大好きよ」 「本当はシロだったらしいんですけど」 ──小さなあなたがチロとしか言えなかったから、そのままチロにしちゃった。 そう言った母の笑顔。父も笑っていた。 妹が三歳で、私が小学校の一年生。 その時まで、私達は普通に仲の良い家族だった。 「今日がチロの命日だったんです。今度こそ帰ろうと思ったのに」 喉がつまる。 「チロは、私に会いたくないのかもしれません」 「どうしてそう思うんだね」 ハンドルを握ったまま時計屋さんが言う。 「帰ろうとする度に電車が止まったり天気が悪くなったり。今回はこのザマです。それに」 「それに?」 「チロが死んだ時、私、嘘をついてしまったから」
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