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あの時
ずっとそばにいてあげるって約束したのに。
帰省なんてしたくなかった。
家族になんか会いたくもなかった。
ただチロに謝って、どうしても許してもらいたかった。
だからほんとは何度も帰ろうとしたのに。
私のせいじゃないんだよ!
あの日、私だけがチロの死に目に会えなかった。
──わかった。買ってくるよ
「自分のせいなら諦められたんです」
妹がお気に入りのアイスが食べたいと急に泣き出して、
そんな時に冷蔵庫には買い置きが無くて。
――困ったわ。
妹をあやしながら私を見た母。
アイスを買って走った。
何度ドアを叩いても誰も出てきてくれなかった。
耳を近づけると母の声が聞こえて。
(チロッ! チロッ!)
──開けてっ、ねぇ開けてぇっ
──どこへ行っていたんだ!
「父は帰ってきたばかりで事情を知らなかったんでしょう」
泣き声が聞こえる廊下を走った。
「チロッ!」
母を押し退けチロに触った。
「チロ、ねえチロッ」
ずっと一緒にいてあげるって約束したのに。
なんで私、コンビニでアイスなんか探してなきゃいけなかったの?
大好きなチロ。
あと一回ぐらいしっぽを振って、こっちを見てよ、できるでしょ?
だって私、まだ見てないんだよ!
しっぽを握って何度も叫んでいたら
──やめなさい!
「母に怒鳴られたんです。それに妹を見たら」
わんわん泣いていた。
チロが死んだからじゃない。
ただ母の声にびっくりして。
──アイス
「私は妹にアイスの箱を突きつけました」
──食べなよほら
「妹は私を見上げて怯えたように泣きました」
──食べなってば! あんたのために買ってきたんだよ!
──何してるんだ!
──だって
──妹のせいにするんじゃない。こんな時に何がアイスだ。チロに恥ずかしいと思わないのか。
「その時、私と家族の間のなにかが切れました」
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