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「着いたぞ」 時計屋さんがクラクションを鳴らしてくれた。 すぐ引き戸の向こうに灯りが点き、人影が映った。 「何時ですか?」 「十一時五十五分ね。ほら、靴だけはちゃんと履いて」 大雨の中、私は裸のまま奥さんの渡してくれたコートとスウェットを持って。 なぜかそのことに何の疑問も抱いていなかった。 「お姉ちゃん!」 顔を出した妹をスルーし、靴を脱ぎ棄てる。 三つ、四つ、 時計が時を打ち始める。 「チロッ! 帰ってきたよ! チロッ」 仏間に飛び込んだ時、時計の音が終わった。 ──間に合った…… おずおずと服を着せてくれようとする母の手を(さえぎ)り、座った私は目を閉じ手を合わせた。 ごめんね。チロ。 ごめんね。
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