どうして私が痛いのか。

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どうして私が痛いのか。

店が閉まり、私は清掃を1人でやっていた。 今日一緒にシフトを回していた子たちは、みんなで夏祭りに行くそうだ。 いうてまだ6月だぞ、はっちゃけるには早すぎないか? というより、それを私の前で言っちゃう精神が私にはわからない。私は誘われてないぞ。誘われても行かないけど。 モップを裏に戻そうと奥に入ると、ドアの隙間から店長と佐藤くんの姿が見えた。 何やら言い合いをしているようにも聞こえる。 佐藤くんはかなり明るい茶髪に髪を染めていて、耳にはピアスがバッシバシに空いている。 身長が高くて、言葉遣いが雑だし、街にいたら確実に早歩きにならざるを得ない人物。 しかし、そのスタイルの良さと容姿端麗さ故にヤンキーっぽい部分が綺麗にオブラートに包まれ、多くの人が彼の第1印象を「イケメン」というだろう。 当たり前だが、そんな彼はこんな遅い時間までサービス残業をするようなタマではない。 ……何か嫌な予感がする。 「佐藤くんさぁ、ほんと頼むよ。君がいないとオモテ回らないって」 やっぱり! あいつはすぐ辞めるタイプだと思ったんだよ……。 「大丈夫っすよ。次のやつ、もう見つけてるし」 「全く君は……お客さんにはあんなに愛想振り撒けるのに、どうして僕にだけそんな強気な態度で出れるの?」 「だって店長、ヤンキーに舐められそうな顔してるもん」 「顔で判断しないで欲しいな」 「顔で俺の事採用したくせに」 「なんだと」 「実際そうだろ。俺の顔しか見てねー癖に、何わかったようなことi…」 そこまで聞いて、私はとうとう耐えられなくなり、デカい掃除用具箱を思いっきり蹴飛ばした。 用具箱の上に置いてあったバケツが落ちてきてそれが私の頭にクリーンヒットした。 ついでに右の親指もガツンガツンと痛みがほとばしっている。 「大丈夫かよ!?」 「楓さん、なに、侵入者?」 「アホか、警備員いんだろ」 「うう……痛い…」 「とりあえず冷やそう。佐藤くん、保冷剤持ってきて。デカめのやつ」 私はサッカー部に入部するべきだ。今すぐ顧問を呼んできてほしい。1ヶ月ほど基礎練をすれば、この実力は驚くほど伸びるだろう。私のこの脚力で、チームを引っ張りあげる自信があります監督。 「ねえ、楓さん。わざと蹴ったんでしょ?」 「……はい」 素直なのが私の長所だ。 「楓さんらしいね」 「………はい」 「あ、嫌味じゃないからね?」 「わかってます」 佐藤くんが持ってきてくれた2つともどでかい保冷剤を頭頂部と指先に当てたら、まるでどっかの地方の伝統舞踊を踊ってるようなスタイルになってしまい、大笑いされた。佐藤くんに至っては写メまで撮っている。 「Twitterとかやめてよ」 「記念だよ。どこにもあげねーし。ってか、バイト先で最後に撮る写真がこれとか最悪だな。店長、2人で自撮りしましょーよ」 おい。私を言い訳に使うな。 「楓さんは?」 「楓ちゃんは今撮ったからいいの。最後の1枚って、チョー思い出じゃん。」 2人は私の前で何枚も何枚も自撮りしていた。 私は地方に伝わる伝統舞踊のポーズで、それを横目で見守った。 コーヒーとかもう関係ないじゃん、この話。 [どうして私が痛いのか。]
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