梅雨の午後

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梅雨の午後

「………うん。………うん。ボクは大丈夫。平気だってぇ!そんなに困ってる事は無いからさ。………うん。分かったぁ。」 小学校4年生の夏。ボクは…、事故に遭い、最寄りの総合病院に入院してから10日程が経った日の日曜日の夜。 お母さんから電話が掛かって来て、ボクは、そんな風に呟いていたのを、今でもずっと覚えてる。 実はね、ボク、小学校3年生の頃。交通事故に遭って、それ以来、視力を全て失ったんだよねぇ。 確か、あの時………。 ボクは、真面目に横断歩道を渡ろうとしてたんだけど。突然、車が突っ込んで来て、その頃のボク、どうすれば良いのか分からなくなってしまってて。結局、その車にぶつかっちゃって。ボク、弾き飛ばされて、その時に近くの石に頭をぶつけて。それから暫くしてから、急に目の前から景色が消えてしまったんだよねぇ。。。 その車を運転してたオバサン。お酒を飲んでた上に、スマホで電話しながらの運転だったんだって。それって、オバサンって言うよりも、おバカさん、だよねぇ? …………………………………。。。 後から謝られても、今更、目が見える様になる訳じゃ無いしねぇ。………それに、ゴメンで済んだら、警察いらない。ついでに法律もいらなくなっちゃうかも! ……………でもぉ。 目が見えなくなると、もぉータイヘン。今迄の間、見えてただけに、急に見えなくなっちゃうと、へんな感じ。 最近も、うっかり転んじゃって。それで、ケガして、又、入院。 ………………ポツ、ポツ、ポツ。。。 気が付くと、病室の外は雨らしい。目が見えなくても、音を聞いてれば分かるもの。 雨の降る音を聞いてると、何故だか分からないけれど、安心する。 雨音に耳を傾けてると、辛い思い出や悲しい出来事を思い出す事も無くなるから。 ………実はね、今から数年前、山へハイキングに行った時。ボク、実は、見てしまったんだよね。女の人の首吊り死体。 ボク、その時から、頭が何処か可笑しくなっちゃって。でも、もしも、目が見えなくなっちゃうと、そんな辛いモノを見なくても済むのなら、目が見えない事もそれ程辛いとは思えなくなってしまってるボクの姿。 ………ポツ、ポツ、ポツ。 雨が降る事って、辛いのかな?………それとも嬉しい事なのかしら。 雨が降る事は、悪い事でも無くて、良い事とも思えない。………雨音を聞いてると、何処と無く、ポップコーンが弾ける様な音にも聞こえて来る気がする。 だからこそ、安らぎさえ与えてくれる。 そんな事を思わせてくれた雨音と出会わせてくれた今日の出来事なのでした。             《 第1話 完 》
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