9 Rinko side

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課長が扉をノックして名乗ると、中から『どうぞ』という声が聞こえた。 その声を聞いて課長が扉を開くと、海外の社長室みたいなモダンな部屋が目の前に広がった。 「社長、おはようございます。本日実務研修で私と共に同行させていただきます高橋です。彼女は社外での実務は本日が初めてになりますがどうぞよろしくお願いします」 「初めまして、秘書課に配属されました高橋 凛子と申します。まだ研修中で至らない部分が多いと思いますがどうぞよろしくお願いします」 課長の紹介に続いて自己紹介をすると、私は深く頭を下げた。 春さんの副社長就任式でお顔は見ていたけど、直接お会いしてお話までするのは今日が初めてだ。 自分が務める会社の社長としても、春さんのお兄さんとしても失礼の無いようにと少し体に力が入る。 社長はそんな私を見ると、少年のような笑顔を向けてくれた。 「そんなに緊張しないで大丈夫だよ〜!なんなら僕の方が課長に怒られてばっかだから!」 「社長、それは自信満々に言うことではありませんよ」 「ほら、もう怒られた!」 世間一般的な社長のイメージとは真逆な言動に、少し緊張がほぐれた。 終始にこやかな社長に少し呆れ気味な課長が1日のスケジュールを読み上げると、社長含めた3人でエントランス前に停めてある車へと乗り込んだ。 「本日の結城建設との会議は前回副社長との間で話された内容についての精査になるかと思います。ビジネスコンセプトは社内会議での内容のままで進んでおります。その後のファースト食品は副社長の方で契約内容をまとめていただいておりますので本日は契約締結をお願いします。」 「今日も全部春が取ってきた仕事がいっぱいだね〜。春が出張に行くと本当に春の案件メインになるね〜」 「副社長の案件は営業部でも引き継げない内容ばかりなので社長に行っていただくしかないんです。頑張ってくださいね」 「課長って本当に会長よりお父さん」 取引先に向かう車中で課長と社長の話を聞きながら、秘書課での共有資料などに目を通しながら実際の説明方法などをメモするので精一杯。 社長はクールな春さんとは真逆のタイプで、すごく柔らかい話し方をする。 笑顔が多く、いい意味で社長っぽくないイメージで人に好かれやすいだろうなと感じた。 取引先でも笑顔が絶えなかった。 仕事の話になると爽やかに難しい話をしていて、その姿は春さんと似ているなと少し嬉しくなった。 「かちょ〜〜お腹すいた〜!ご飯食べようよ〜」 今日アポがあったスケジュールをこなし、時間も15時半を回った頃に車の中で社長がシートを倒しながらそう言った。 「移動で昼食を食べれませんでしたね。召し上がりたいものはありますか?本日は会食のご予定もありませんのでお好きな物おっしゃってください」 「今日の夜奥さんと鉄板焼き食べに行くから和食が良いかな〜」 「それでは前回おっしゃっていた懐石料理に行ってみましょうか?」 食事先を決める話ですら、課長の配慮や対応力が垣間見えていて私としてはすごく勉強になる。 「お!いいね!今日は高橋さんの実務研修祝いに皆でご飯食べよう!」 社長の提案で課長と私も遅めの昼食にご一緒する事になった。
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