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1 Rinko side
「ごめん、もう二度とこんなことしないから…!」
そう言いながら必死な顔をして床に額をくっ付けて土下座をしているのは、3年付き合っている彼氏の齋藤 弘也(ヒロヤ)。
これで3度目の浮気が発覚した。
3年目の浮気なんて言うけど、この人がしたのは3度目の浮気だ。
年1回のイベントの如く繰り返し、事が発覚する度にこうして土下座をする。
「流石にもう無理だよ…。これで3回目だし…これ以上弘也といるのしんどい」
家の最寄り駅で見知らぬ女性と楽しそうに手を繋ぐ弘也を見た時、またか、とショックも受けない自分に正直驚いた。
この土下座に意味も価値もないのはいい加減わかっている。
何より3度も浮気され、これ以上付き合うのも無理があると思うけど、浮気をされてもなんとも思わない相手といることの方がしんどいというのが本音だ。
「本当に!今後は凛子以外の女とは会わないし連絡も取らないしさ、だから許してよ〜…ごめんなさい!」
「いや、でも…」
「これで最後にする!もう絶対にやらないから!!」
眉尻を下げ、潤んだ瞳で私を見る弘也。
こういう顔をすれば私が断れないというのを分かっていてやっている。
頭では分かっている。
絶対に首を縦に振ってはいけないと。
この世に生まれてから28年間、いつもそうだった。
両親が共働きだった為に預けられていた保育園では玩具や遊具は「それ貸して」「交代して」と言われればすぐ渡し、小中高では「塾があるから」「予定があるから」と言われ掃除を変わり、大学では横でスマホ漫画を読む同級生がどうしてもと頼むのでレポートを代筆し、社会人となった今は総務部という何でも屋さんみたいな部署で働いている。
高校3年の時の担任に、貴女は献身的だからサポートに回る様な仕事が合うんじゃない?と言われたけど本当はあまり好きではない。
それでも、断ることが苦手で、断る理由を考えて伝えるよりも引き受けてしまった方が楽なのだ。
私が断ったら、この人の予定が…とか考え出すと酷い罪悪感で苦しくなってしまう。
今だってそうだ。
私が今弘也の謝罪を受け入れず、このまま別れたらこの人はどうなるのだろうか。
もしかしたらこれが本当に最後かも…
そう考えてしまうと止まらず、一言も話せなくなってしまった。
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