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9 Rinko side
深夜12時。
「ここが洗面所でその奥が風呂ね。ここはトイレ、向かいは寝室でこれは俺の書斎なんだけど凛子も使って良いからね」
私は今、大きなキャリーケース二つを両手に、いくつあるのかも分からない部屋の説明を受けています。
「このドレスルームに洋服を置いてくれて構わないから。俺の服しかないから半分余ってるんだよね」
分かってはいましたが、本当に広いんです…このお家。
「で、この部屋が余ってるからここを好きに使って。必要なものがあったら言ってね、すぐ手配するから」
「春さん、忘れない様にメモを取っても良いでしょうか…」
なぜ私がキャリーケースを転がしながら、春さんの部屋の説明を受けているかと申しますと…。
「そう言えば、齋藤が凛子の家の鍵をまだ持っている可能性があるって言ってなかった?」
春さんがそう言ったのがきっかけ。
確かに、別れる時に鍵を返して貰ってない。
捨てたりしていない限りは、まだ弘也の手元にある可能性が高い。
それを春さんに説明すると、眉を下げて心配そうに私の目を見た。
とにかく安全が確保できる場所に身を置いて欲しい。
そう言った春さんは、次から次へと案をあげた。
「この家に居てくれてもいい。気を遣う様なら俺は家を開けるから。それが嫌ならもっとセキュリティーがしっかりしてるマンションに引っ越そう?ホテルが良ければ一室買い取るよ。とにかく凛子が安心して生活が出来る環境なら何処でも良い」
俺の我儘だし、いくらかかっても凛子には負担をさせないから…と話す春さんに私は頭を悩ませたけど、色々考えて春さんのお家でお世話になる事を決めた。
迷惑をかけたくなくて、暫くはビジネスホテルかどこかに避難しようと思っていたけど、それを春さんに言えば本当に一室買い取ってしまいそうだったので、それならせめて春さんと一緒に居たいと思った。
『我儘言ってごめん』という春さん。
本当は、私もちゃっかり我儘を通した事は内緒だ。
そんなこんなで春さんの車に乗り、荷物をまとめに私の家へと向かった。
この時ばかりは春さんと一緒に言って本当に良かったと心底思った。
「予想通りだな…」
「ここまでするとは…思ってなかったです」
鍵が開いたままの施錠されていない玄関のドア。
部屋に人がいない事を春さんが確認して中に入った途端、恐怖で背筋が凍ったのを感じた。
玄関から居室まで荒らされた部屋。
朝家を出たとはまるで姿を変えた部屋は、弘也の仕業だとすぐに分かった。
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