9 Rinko side

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「あっ、薔薇…」 私は咄嗟に思い出し、履いていた靴を乱雑に脱ぎ捨てるとリビングへ急いだ。 荒らされたリビングには、そこだけ変わらずにかけられたあの薔薇。 「良かった…無事だった…」 安堵の溜息をつくと、春さんの声が玄関から聞こえてきた。 「入って平気?」 「あ、はい!かなり荒れてますが…」 「軽く片付けたら荷物まとめて帰ろう。戻ってくるかもしれない」 春さんのキャリーケースと私の旅行用の一番大きいキャリーケースに当面は困らない量の服や靴、メイク道具やスキンケア用品を手当たり次第詰め込んだ。 すっかりドライフラワーとして綺麗に咲く薔薇は、大切に花瓶に入れて持ち運ぶ事に。 荷物を車に乗せ、花瓶抱えながら車に乗り込んだところで、ようやく心のザワザワが落ち着き安心感が戻る。 「その花綺麗だね。凛子の大事なもの?」 帰りの車内で、あまりにも手を放さないのが気になったのか春さんが聞いてきた。 「はい…婚活パーティーの時に春さんが渡してくれた薔薇です。あまりに素敵だったのでドライフラワーにしてしまいました…」 「え…何それ、にやけちゃうな…」 運転しながら、本当に口角が上がる春さん。 失礼かもしれないけど、ちょっと可愛いと思ってしまった。 再び春さんのマンションに戻ると、玄関からリビングまで全ての部屋の説明をしてくれた、と言うわけだけど…。 ドレスルームって…なに…? ドレスなんて言うほどの服持ってないです…。 寝室と、リビングしか見た事がなかった私は、想像以上の広さに驚いていた。 「春さん、今までこんな広いお家で一人だったんですか?」 「そうだよ。この家買ってからずっと一人暮らしかな」 「そうなんですね…って、えっ?!買ったって、持ち家なんですか?!」 「あれ、言ってなかったっけ。10年以上働いてて、使うところもなかったから家と車にドカンとね」 ドカン… 都内の一等地に家と車をドカン… 「あ、それと朝はエントランスに平尾か車で迎えに来てくれるんだけど、このインターフォンが鳴って、コンシェルジュが知らせてくれるようになってるから。このボタンを押せばタクシー呼ぶとかクリーニングとか…あんまり使わないけど電池も買えるし、郵便物の発送とか割となんでもやってくれる」 AOIコーポレーションの副社長らしい現実を紹介してもらい、それが終わる頃には非現実な現実に頭が爆発するところだった。
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