9 Rinko side

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私の部屋として、貸してくれた部屋で軽く荷物を解くと、お風呂に入った。 タオルやドライヤーの場所を教えてもらうと、めちゃくちゃスケルトンなお風呂に入った。 緊張しながらも溜めていてくれた湯船に浸かった時、1日の疲れが流れていって、最後に残ったのは春さんとのキスだけだった。 男の人、なんて言葉では片付けられない。 完全に“雄”になった春さんのあの表情。 首の後ろに添えられた、大きくて力強いのに優しい手。 徐々に荒くなる吐息がまだ耳に残っている。 「…っ〜〜〜!!」 私は声にならない叫び声をあげると、浴槽の中でジタバタと暴れて幸福感と恥ずかしさとが入り混じった感情を爆発させた。 『蒼井さん……好きです』 込み上げてくる“好き”と言う気持ちが、思わず口を衝いて出てしまった。 本当に小さな声だったけど、どうか聞こえないで…と願った。 『好きだ』 まさか春さんからそんな言葉が返ってくるとは、思っても見なかったから… 水が流れる如く、一日で色んなことが起きていてまだ頭が追いついてない。 もし明日目が覚めて、全部夢だったらどうしよう。 「どうか夢じゃありませんように…」 蜃気楼の様に立ち込める湯気の中でそう願った。 それからの私の日常は、大きく変化していった。 暫くは春さんの運転手さんに送迎してもらい、様子を見ようとなり、毎朝毎晩春さんと通勤。 秘書課へ異動の話も驚く程のスピード感で進んでいき、総務の引き継ぎを済ませるとすぐに秘書課での仕事が始まった。 「高橋さん、秘書課へようこそ。分からないことはすぐに聞いてね」 スマートかっこいい集団である秘書課の皆さんは、想像の数百倍優しくて色んな事を学ばせて貰った。 元々資格を取るのが趣味、みたいなところがあって勉強をするのはすごく好き。 自分の知らない世界が理解できる様になるのがとても楽しい。 そんな数日を過ごしたところで、春さんに出張が入っている事を知った。 「副社長は現在秘書がついていないので、出張申請はご自身でやられています。申請が入ったら、今は課長が宿泊施設等の手配をしています。」 「では、通常であれば秘書が申請を出した上で、様々な手配を行うという事ですね」 「はい、そうなります。スケジュールは、支給されるタブレットから確認できます。秘書が随時更新していく形になりますが、今のところ副社長の予定は入力して貰わないといけないんです」 「秘書が行う業務を副社長は全部自分でやられてるんですね…」 毎日沢山の仕事をこなしながら、スケジューリングも自分で行っているなんて…。
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