9 Rinko side

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少しでも早く仕事を覚えて、少しでも早く手助け出来たら… そう思うと、勉強も捗る。 その日の夜になり、復習がてら支給されたタブレットとメモした内容を交互に見ながら操作していると、お風呂から出てきた春さんが出張の話を始めた。 「凛子、明後日から出張で…明日の夜には出なきゃなんないんだ」 「新規プロジェクトの視察ですよね?ちょうど今日の研修でタブレットを支給されて、春さんのスケジュールの見方教えて貰ったんです」 「…あぁ〜、1週間も離れるなんて耐えられない。ポケットにでも入れて連れて行きたいぐらいだ」 後ろから抱きつき、私の肩に顔を埋める春さん。 お風呂上がりのいい匂いがした。 「1週間…長いですね」 「一緒に来る?」 「それはまだ…ダメです。秘書としてまだ全然仕事が出来ないので…」 本当は一緒にいたいけど、私がそう言えば多分春さんなら本当にその手配をしてしまいそうで。 それをしてしまったら今一生懸命学んでいる意味が無くなってしまう。 春さんの手助けがしたい。 何もしていないのにただ一緒にいるなんて、私にはそんな事出来ない。 春さんが色んなきっかけや感情や経験を私にくれる分、私はそれに応えたい。 「なら、頑張って早く帰ってくるよ」 「無理しすぎはダメですよ?」 「うん、分かった。来週まで会えないから今の内に充電させて…」 春さんはそう言うと、ソファーに座った。 かと思えば、私のことを軽々と持ち上げると、向かい合わせになる様に膝の上に乗せた。 ソファーに座る春さんに、腰を持たれたまま跨る形になってしまった私は突然の事に驚き春さんの顔を見る。 「今日はもう勉強終わりにしない?」 「で、でも…」 「明日は時間がないから凛子とゆっくりしたい」 低くて、それでいて優しい声。 私の腰を抱き、胸元に顔を埋めるその姿に愛おしいと思う気持ちが募る。 「凛子さん、ダメですか?」 そう言うと、春さんは目を伏せ、私の首筋に鼻をそっと触れさせると鎖骨に舌を這わせた。 突然の刺激に、一瞬腰が浮いたと同時に小さく息が漏れた。 この数日間、絶対に意識しないようにしていた。 お互いやるべき事があって、1日中動き回ってる彼は疲れているはず。 キスをして眠りにつく。 腕枕で背中に温もりを感じるだけで満足していた。 …はずだった。
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