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沙紀には残業になった事を伝えると、苦虫を噛み潰したような顔で見送ってくれた。
私は苦笑いしながら沙紀に手を振ると、山城さんから託された在庫管理用のチェックシートが挟んであるバインダーを片手に備品庫へと向かった。
備品庫は総務部の1つ下の階。
エレベーターを降りて右に出ると、廊下をずっと先に歩いて一番奥の方にある部屋がそれだ。
首から下げたセキュリティーカードをかざして中に入ると、本屋さんの様な備品庫独特の匂いがした。
備品庫は嫌いじゃない。
人がいなくて静かだし、一人で黙々と作業が出来るのはとても落ち着く。
「さぁて、まずはどこから始めましょ〜う」
なんて、まぁまぁ大きい独り言を言ったとしても人がいないので不審に思われる事もない。
滅多に人も来ないし、一生ここで仕事していても良いくらいだ。
定時まであと5分。
残業になったんだ、どうせなら気分をあげていこう!
昨日あんなことがあったと言う事もあり、無理矢理にでもテンションを上げようと鼻歌を歌いながら庫内の在庫確認をして回った。
一つ一つ備品を数えて周り、20分程した頃だった。
もう4月だと言うのに、暖房でもつけているのだろうかと思う程に暑さを感じている事に気が付いた。
「あっつ…」
額にじんわりと汗をかいていた。
「誰か暖房にしちゃったのかな…」
そう呟き、出入り口近くにあるエアコンの操作機に足を向けた。
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