9 Rinko side

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課長が電話で予約を取り、お店に向かっている間にメモを手に課長から業務の話を聞いたりと時間を余すことなく研修に邁進した。 「蒼井様、お待ちしておりました」 丁寧にお手入れされた日本庭園の中に敷かれた石畳を歩きお店に着くや否や、着物を着た女将さんと仲居が正座でお出迎えしてくれた。 ドラマでしか見たことがないような高級料亭にキョロキョロしてしまう。 女将さんに連れられ、通された8席もある大きめな部屋からは庭園が見渡せる素敵な空間。 「掘り炬燵じゃん!景色もいいしご飯楽しみだね。」 内装や風景に期待を見せる社長に指示を受けて、私は社長の正面に、課長は社長の隣に座る。 「女将さん、もう1人来ることになったので4人分で用意してもらってもいいですか?」 「はい、承知いたしました。お食事はお連れ様がいらしてからにしますか?」 「多分後10分程で来ると思うので始めてもらって大丈夫です!」 「それでは、順番にお食事お持ちいたします」 笑顔で部屋から出ていく女将さんに会釈をして見送ると、課長が口を開いた。 「どなたがいらっしゃるんです?」 「それは来てからのお楽しみだよ。連絡したら来るって言うし、最近会ってなかったから呼んじゃった」 「本当に社長は自由人ですね。高橋さんもいるんですからあまり暴走しない様にお願いしますよ」 呆れたように短く溜息をつく課長の横で、社長は『また怒ってる〜』といたずらっ子の様な顔で笑っている。 そんな中、手際良く仲居さんが飲み物や食事のセッティングをしてくれていた。 それから10分と経たないうちに料理が運ばれてきた。 皆の前に料理が並び、仲居さんが部屋から出た後すぐに女将さんがやってきた。 「蒼井様、お連れ様がご到着されました」 その言葉に、一体どんな人が来るのかと少し緊張。 私だけでなく、社長や課長も視線を向ける。 女将さんが開けた襖から、落ち着いた雰囲気で入ってきたその人を見て思わず息を呑んだ。 「悪い、タクシー捕まらなくて遅れた」 そう言いながらネクタイを緩めたのは、春さんだった。 「こっちも着いたのちょっと前だし、食事も今来たところ」 「そう、なら良かった。課長もお疲れ様です」 「副社長、お疲れ様です。出張の方はいかがでしたか?」 スーツのジャケットを脱ぎ、女将さんに渡すと春さんは課長と仕事の話をしながら、とんでもなく自然に私の隣に腰を下ろした。 若干頭がこの状況に追いついていない私は、ふと社長の顔を見る。 すると、そこには満面の笑みで私を見つめる社長の姿。 社長には知られていないと思っていたけど… この感じはめちゃくちゃ知ってるよ!の顔だよね…? 社長に知られている事に気付いた途端、春さんの隣に座っているのが恥ずかしくなってしまって下を向いてしまった。
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