水の琴

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 今年も隠岐の島ウルトラマラソンの季節が巡ってきた。  彼には昨年聞きそびれた水琴窟(すいきんくつ)の現状を知りたいという願いもあった。  大会前日の受付会場でみやげ物を出店販売している方々と再会。一年ぶりなのに時間の隙間が一気に埋まったかのよう。  また会場では昨年会えなかった担当の方と再会。これだから毎年参加したくなる。  昨年からマラソンコースが少し変更になり、目当ての水琴窟よりも手前で十キロ地点。少し走ってようやく平原が眼前に広がる。やはり水琴の調べは聞こえない。水琴窟の表示があったはずの場所は廃屋になっていた。  喪失感に襲われながらも走っていくと、応援に踊っている一行と再会。 「ただいま」と挨拶すると「おかえり」と答えてくれた。  上り坂は神田祭の神輿を担いだリズムを思い出し駆け上った。  朝五時にスタートしたマラソンも七時間過ぎた頃、暑さに脚がもつれて、四十八キロ地点で転倒してしまった。四百メートル先は第二関門であり、給食もあるレストステーションである。何とか駆け込んで関門クリアできたが救護で応急処置を受けた。引き続き走ることは出来るとのことであったが、再び転倒することを防ぐためリタイアした。  宿泊したホテルの人からの話によると、水琴窟のあった家は空き家になったとのこと。以前撮影した動画で思い出すことになる。  帰宅して動画を再生してみた。懐かしい調べが沁みる。  一度も百キロを完走していないので、来年こそはと練習に励むのであった。
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