不器用な恋人たち

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 なれそめ、というのはなきに等しい。  ほんの二ヵ月ほど前、出会った日に結婚が決まり、あれよあれよという間に入籍、同居を開始して今に至る。  楓花によると、婚活に失敗した帰りにたまたま俺が目に付いて、やけくそでプロポーズしたらしい。求婚を受け入れられたことに彼女は相当驚いたと言うが、実は俺もびっくりした。振り返ってみても、なぜあのとき自分が頷いたのか、思い出せない。楓花は歴代のどの彼女とも違うタイプだったのに。  けれど、今の生活は割と気に入っている。 「何かあったんですか? すごい悲鳴が聞こえましたけど」 「な、何でもないです」  楓花は、盛大に目を泳がせてそう言った。クールでバリキャリという職場の彼女をどうにも想像できないくらいのうろたえぶりである。 「いや、何でもないって顔じゃないですよ。ケガはしてないみたいですけど……」  明らかに何かあるのでつっこんで聞くと、ごまかすのを諦めたのか、彼女は一度手をとめた。 「……では、た……、食べたいものを教えて下さい」 「……は?」 「食べたいもの! ありませんか!」  そんな急に聞かれても、と言いかけたが、彼女がスプーンの柄をくびり取るかのような勢いで磨いているのに気づき、口を閉じた。 「食べたいものがないなら欲しいものとか!」 「はあ……」  一体どうしたのだろう。いつにもまして挙動不審だ。
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