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「……でも」
楓花が首をかしげる。「これが、ずっとやれなかったことなんですか? どうして……。天気が悪かったからですか?」
俺は苦笑した。
「いえ。だって……、キザでしょう? 君に、この星空をあげる、なんて。夜中に書くラブレターみたいなもんですよ。やってみたいとは思ってたけど、さすがにキザすぎて」
「私に、くれるんですか。この星空を」
楓花も笑いながら尋ねてくる。
「ええ。……ああ、でも、今日のこの星空だけですよ。俺の自由にできるのは、誕生日である今日だけなので。明日の空は、俺以外のどっかのキザ野郎が恋人に贈るんだろうし――」
そこまで言ったとき、楓花にガッと腕をつかまれた。驚いて目を丸くすると、彼女はそれ以上に目を見開いていた。
「――間違えました。違います、これ! だって、私がプレゼントされてるじゃないですか! 結真さんの誕生日なのに、なんで私がプレゼントされてるんですか!」
「……ああ、そのことですか。まあ、いいじゃないですか」
「よくないです!」
「いいですよそんなこと」
譲らない楓花の手の上に自分のそれを重ねる。
「だって夫婦って、一心同体みたいなものなんでしょう? どっちの誕生日だっていいじゃないですか。俺の誕生日だって、楓花さんの誕生日だって、どっちも同じくらい大切で。だから――……って、俺、またキザなこと言ってますね……」
笑ってごまかしたが、さすがに引かれたかな、と思って楓花の顔を盗み見る。すると、彼女は笑うでもなく、しらけるでもなく、ぼうっとしてこっちを見ていた。
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