透き通ったか弱い声

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透き通ったか弱い声

ライムのビートはもっとこう、ネ? 熱く語っている彼を尻目にどうでもいいみたいな返事をしていた。 彼がエミネムにハマったのは随分、前だった。ブームの最中、当然8マイルを見て、当然、キムタクの影響から知り、当然の如く、rapにハマった。 それから色々なラップを聴きまくった。しかし、彼がエミネムに影響を本当の意味で受ける事はなかった。 書き殴るようにその言葉を彼らの音楽を聴きながら、文体にリズミカルに描き切る、その彼のライフスタイルが、エミネムに一番感化された事だ。 周りのそれを読んでいる人たちは、業務日誌に、なんか、それっぽいの書いてて草と笑っていたのかもしれない。それとも、それ程彼の事に対しては特別視しておらず、また長い文章書いてるな、長いなーて感じで見ていたのかも知らない。 相手の事は基本的に理解できない人だ。 彼が音楽と言うものについて、いつも凄いと感じるのはその女のような声で、まるで透き通った声に聞こえる。彼は彼で、その声を嫌う。 何故? いや、しゃくれてるからさ、あんまり好きじゃねーんだ。 そうマイク片手に彼は、地声で低音が評判が良かった。 しかし、それもしなくなって最近は、女性singerの歌ばかり歌っていた。 菅田将暉君、余り歌わなくなったね? 淋しそうに彼女が、言った。 彼も嘆き顔で、哀しそうに、ごめんね、大好きなんだよ。今でもたまに唄うと、彼って最高だと、幸せな気分になる。僕は、本当に彼が大好きなんだなぁ そう、回想する彼は、なんともチャーミングで、可愛らしく、堪らない。 私は、カラオケでは、彼の歌では、トドメのキスの主題歌の歌とか、米津玄師とかばかり歌っている。彼は、感電ばかり歌ってる(笑) アーそんな奴仲間にいねーかな〜 かったりい、とそう彼は、カラオケボックスに行った際、そうぼやいていた。しかし、そんな人は私の周りにも、きっと彼の周りにも、どこにも居ない。 ネ?辞めない? ん? カラオケに行っても何にも憂さ晴らし出来ないよ… …それ言うなよ。 …ごめん、キミがそれしか発散法ないの、悲しくってさ。 カラン、とグラスの音が氷と共に崩れて、響いた。 …お前はイイよ、自分の幸せが何によって満たされるのか、よく分かっている。そう言う自分を知ってる女は強い。自尊心が有る。オレには無い。 彼女は五条先生が好きだった。 僕は夏油センセイ、なんて、ふざけて言ったりしていたが、僕なんか、あの漫画のどのキャラにも該当者はいない。乙骨君なんて、柄じゃ無いし、僕は僕で僕らしくいられたら、それだけで良い。本当に自分らしい自分って言うのが、まだ全然知らない。 砥上裕將さんと言うメフィスト賞を取った小説家の本を、自分とは全然タイプが真逆な主人公の話を、買って、凄い作家さんなのは、良く分かった。 そして、自分がどんなキャラクターを描きたいのかも良く分かった。彼の作中に出てくるキャラで、サングラスをかけた風変わりな人が、僕の目に止まった。 うーん、わからないでも無いが 思わず唸ってしまう。 何が言いたいか、僕はもうとっくに知っている。 僕が憧れた人間なのだな、と。
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