左胸が爆ぜる熱量

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 その日は熱帯夜で、街を歩いているだけで、汗が止まらなかった。二人はいつもの作戦で対戦相手を探していた。男は街を歩きながら最も安全な道を探し、彼の友人がその間に相手にふさわしい者を探す。その間二人は携帯電話で話しながらでいる。  その日は雑談も盛り上がらず、お互いに無言となることが多かった。街にひったくりが出回っていることが大々的にアナウンスさせれているせいか、いつもより警戒心が強く、丁度良い的も少ない。繁華街の熱気に浮かれて盛り上がる人々に熱を奪われるように、彼らはすっかり黙り込んでいた。 「なあ、俺、もう辞めるわ。」  彼が友人の告白を耳にしたのは、街を彷徨ってすでに一時間を越えようとした頃だ。 「なんでだよ。」 「だって、こんなの犯罪なのに、割に合わねえし、もういいかなって。」 「元はと言えばお前が誘ってきたじゃねえか。」 「それは悪かったよ、でもまだ誰にもバレてねえからさ、今が潮時だよ。」  彼は返事が返せなかった。それを返事と受け取った友人は電話を切ろうとした。 「そういうわけでさ、今まであんがとよ。」  電話が切れる寸前、友人は電話の向こうからすごい勢いで駆け寄る足音を聞いた。電話を耳から話した途端、彼の携帯電話は先程別れを告げたはずの男に奪われた。  その瞬間、友人は呆気にとられた顔をしていた。男の表情には、  怒りの色しかなかった。
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