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第二百二十二話*《三十四日目》きゅ~んきゅんきゅん
コルがボスの移動に失敗して踏みつけられ、それで一エンドしたリィナリティです。
みなさまにおきましては、ごきげん麗しゅう……?
『リィナ、戻ってきてすぐに申し訳ないんだが、バフをもう一度、かけなおしてくれないか』
『はははははははいにゃ』
フィニメモ内のモンスターって基本はリアルにいるものをベースにした見た目をしている。このボスも変な見た目をしているけれど、現実にいるのだろう……たぶん。
初めて見たのと、魚が水中ではない空気中で自立していたことにびっくりしていたのだけど、キースの要望に現実に戻ってこられた。
『んでは! 『アイロン補強』『アイロン充て』『癒しの雨』っ!』
『ありがとう』
キースのお礼の声に少し口角を上げて応えたら、手首を掴まれた。
『……ログアウト』
『いや、ここでは無理ですからっ!』
『ぐぅ。なんで今、そんなかわいい顔をオレに向ける』
『お礼を言われたからですけど』
『なるほど。今度からしつこいくらいお礼を言うか』
そんな暢気なことを言っていられるのは攻撃が始まるこの一瞬だけだった。
『あいつはマツカサウオという魚のようだ』
『マツカサウオ? 初めて聞きました』
『それほど珍しい魚ではなく、むしろ固い鱗と鋭い背びれと尾びれのせいで漁師には嫌われているが、食べると美味しいようだ』
『あれ、食べられるのですかっ?』
『『鑑定』したらそう出た』
『鱗が固いから調理は大変そうだけど、美味しいのなら倒して持って帰ってみんなで食べましょう!』
そんな暢気な話をしていたら、キューンキューンという音? 声? がしてきた。
『なにか聞こえ……』
キースに聞こうとした質問の途中から、ぷつりと記憶がなくなった。
『……………………』
そして今、私はキースとともにリターンポイントにいる。
『あれ、キースさん?』
『……リィナもいるか』
『リィナリティさん、キースさん、早く戻ってきてください! ボスへの挑戦権が消えてしまいます!』
オルドの切羽詰まった声にキースと顔を見合わせた後、キースは私を雑にかつぐと走り出した。
キースって意外に私の扱いが雑なのよね……。
まぁ、多少のことでは壊れないから大丈夫ですけどね?
キースは全速力でボス部屋の前に行ってくれた。扉が明滅している。
慌てて近寄ると、吸い込まれた。
スッと視界が変わり、あの白い貝殻がたくさん貼り付けられた部屋に戻ってこられたところをみると、ギリギリセーフだったようだ。
『なるほど、外のボスやレイドのように部外者の妨害をされないようになってるんだな』
『そうですよ。気をつけてくださいね』
とは言われても。
『ところで、なんで私たち、ふたり揃ってリターンポイントにいたのですか?』
『……オレも分からん』
『オルド、分かる?』
私の質問にオルドは困ったようにうつむいた。
『それはうちが説明するのね』
コルはまだいたようで、説明をしてくれるようだ。
『あのボスから変な音がしたのね。あれは睡眠で、あなたたちふたりはそれで寝ちゃったのね』
『睡眠……』
え、それって勝ち目がなくない?
一応は『アイロン補強』と『アイロン充て』で強化されているはずなのに、それでも寝てしまうってことは、ほぼほぼ防御は無理ってことじゃない?
『これ、勝てます?』
『勝てます、ではない。勝つ』
『キースさん、前向きなのはとてもいいと思いますし評価もしますけど、睡眠は防ぎようがなくないですか?』
『気合いでどうにかする』
それってどうにかできる問題でしたっけ?
『キースさんって思っていたより体育会系なんですね』
『……そうだな』
私なんてごりごりの文化系ですけどね!
『幸い、向こうはまだオレたちが戻ってきたことに気がついてない。リィナ、乾燥を』
「はいにゃ! 『乾燥』っ!』
もちろん、注ぎこめるMPマックスでボスのHPの半分と『デバフ・無抵抗』を狙った。
のだけど。
『効いてない?』
『なるほど、あの固そうな鱗が原因か』
今の攻撃でボスがこちらに気がついてしまった。
【きゅ~んきゅきゅきゅきゅ、きゅ~んきゅきゅ……】
またもや見た目と違ったとてもかわいらしい声で歌らしきものを歌い始めた。
まずい、これが睡眠……っ!
と気がついたときにはすでに遅く、またもやキースとともにリターンポイントに立っていた。
『リィナ、戻るぞ』
キースは私の返事を待たずに小脇に抱えた。
『はい……にゃあああああ!』
ダッシュでボス部屋へ。またもやギリギリで入室できた。
『睡眠がまずいな』
『耳を塞ぎます?』
『それでは防ぎ切れなさそうなんだよな』
むー。
それでは、どうすれば……と悩んでいたら。
『きのの!』
『のここ!』
キースが胸ポケットに入れていたきののとのここがぽーんっと飛び出てきて、キースの頭に乗った。
『?』
『きのの~♪』
『のここ~♪』
きののとのここがキースの頭の上でいきなり歌い出した。
『歌……?』
『前にも聞いたことがあるが、笑えるな』
『前にも聞いた?』
『あぁ、リィナが洞窟で戦っているときに……。あ、いや、ごほん』
…………? 前に?
災厄キノコの子であるきのとのこを使った……というか、勝手に出てきて謎のライブを始めたのは、サラとともにさらわれたオセアニの村の近くの洞窟でだ。
あの洞窟には私とサラしかいなかったはずなのに、どうしてキースが中での出来事を知っているのだろうか。
……っと。
今はそれを考えている時間はない。
『……きののとのここの歌声であの睡眠に対抗出来るのでしょうか』
『きのとのこも出せばいいんじゃないか?』
キースの言葉にサコッシュがゴソゴソっと動いて、中から勝手にきのとのこが出てきた。
気のせいか前に見たときより大きくなっているような気がしないでもない。
出てきたきのとのこを見たきののとのここはキースの頭から、きののはきのの頭に、のここはのこの頭に乗っかった。
「きのぉ~♪」
「きのの~♪」
「の~こぉ~♪」
「のここ~♪」
四匹?はそろってなにかを歌い始めた。
なんとなくのこを『鑑定』してみたら、やはり前より大きくなっていた。
サコッシュの中で成長するって怖いのですが!
それもだけど、増えていたし。
さて、どうしたものか。
『どうやら今、歌われているのは「力の歌」のようだな』
『力の歌』
『もう一度、攻撃をしてみよう』
『乾燥』はまったく効かなかったから、『乾燥・解』が使えるはず。
『『乾燥・解』っ!』
危険ではあるけれど、ヘイト値減少を狙ってHPを半分費やして攻撃を仕掛けた。
攻撃は問題なく通り、マツカサウオのHPは減ったのだけど……。
『やはりボス? 思ったよりHPが減ってないDeathね』
『あのな。……まず、オレを殺すな。ボス相手に一撃でHPバーが目に見えて減るなんてないからな』
『そうなのですか?』
『そうなのDeath……よっ、と』
キースも密かにDeath使いとなり、ボスにスキルで攻撃していた。
見事に命中していたけれど、そういえばマツカサウオって装甲がめちゃくちゃ硬かったんだ。まったく減ってない。
『与えたダメージは1、か』
『これ、どう考えても倒せませんよね? 運営はこのダンジョンの開放をさせない気でいるのですかね?』
『手前のモンスター配置のいやらしさも考えると、そうかもな』
もしもそうであるのなら、俄然と倒してやるという気になってくる。
『キースさんは私のサポートをお願いします』
『いつもどおりってことだな』
『……そうともいうかもしれません』
言われてみれば、キースっていつも私のサポートをしてくれているかもしれない。
『やっぱりキースさんってお姫さまなのですね』
『……そうかもな』
少し不服そうではあったけど、今までは楓真がお世話をしてきていたのだろうから、王子よりお姫さまだろう。
だからって私が王子かというと違うし、お姫さまでもない。
っと、そんなことはどうでもよくて。
【きゅ~んきゅんきゅん……】
まずい、睡眠の歌が始まった?
と思っていたら、きのこたちがそれに被せて歌い始めた。
なんというか、音が混ざって不協和音なのだけど、そのおかげなのか、睡眠にかからなくなったぞ!
さぁ、この隙にガンガンと『乾燥・解』を掛けまくるぞ!
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