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第三十三話*《三日目》騒がしいことこの上ない野菜狩り
バイオレンスな野菜に、ロックな芋。
私の腹筋は崩壊寸前なのですが、キースは話を聞いても平然としている。
家に畑があると言っている割には、もしかして、本来の畑の姿を知らないのかしら?
「キ、キースさんは今の話を聞いて、おかしいと思わないの?」
「最初は驚いたが、この世界での野菜はすべてが動くと分かったからな」
「い、芋がサングラス掛けてるのは?」
「地面の中で育つにんじんも大根もネギもかけてるし、にんじんなんて夜になったら地面から抜け出してナンパするそうだ」
「…………」
に、にんじん……。無駄にアクティブなのっ?
「それで、必要な野菜は?」
「トマトとジャガイモみたい」
「キュウリは?」
「あったらサラダが作れるから、あってもいいかも」
この畑にある野菜をいくつか持って帰ろう。
「ところでこの畑ってだれか所有者がいるの?」
まさかこんな整備されているとは思わなくて、気になって聞いてみた。
「ここは村の農家組合にお金を払っている人たち向けに開放されてる畑です」
「ということは、洗浄屋で払ってるってこと?」
「そうなりますね」
あれ?
その話を聞いて、疑問に思うことが沸いてきた。
「あの、つかぬことをお伺いしますが」
「リィナさんの聞きたいことはだいたい分かっています。が、その話は今、ここでするものではないので、まずは狩りをしてからですね」
え、やっぱりこれ、野菜の「収穫」ではなくて、野菜の「狩り」なのね。
まずは大人しいというキュウリから。
キュウリは支柱に支えられていて、水撒きがされたばかりなのか太陽の光を滴がキラキラと反射していた。
みずみずしいキュウリが何本かぶら下がっていた。
野菜狩りはキースとするようにと言われたので、ともに近寄ると……。
「しぎゃぁぁぁ」
「キュ、キュウリが喋ったっ?」
「喋るというか、威嚇してくるな」
私たちが近寄ると、もがれたくないらしいキュウリは威嚇の声を上げ、シャキッと音を立てて棘を逆立てた。
なにこれ怖い……。
私がビビってキースの後ろに隠れているからなのか、キュウリは私に向かって威嚇と何度もシャキッシャキッと棘を出したり戻したりとしてくる。
な、なんか私、キュウリに遊ばれてない?
キースから少し離れてみると、キュウリは大人しくなった。キースの真後ろに戻ると、キュウリはまたもや威嚇してくる。
これ、どうやらキュウリが私で遊んでいるようだ。
キースもそのことに気がついたらしく、手には……えっ? な、なんですかその無駄に刃幅のある武器っ? しかも刀身が赤くて、心なしか燃えて……えっ? 刃から炎が吹き出したっ?
「おまえら、キュウリの分際でリィナを弄ぶとは、笑止千万っ! おまえらすべてを狩り尽くしてやるっ!」
「わーっ! ま、待った! キースさん、タイムっ!」
なんかよく分かんないけど、キースが切れたっ!
「止めるな、リィナ。こいつらには身をもって知らしめなければ」
「いや、キュ、キュウリもただ遊びたかっただけなんだよ! ほ、ほら! すっかり大人しく……って、し、萎れてないっ?」
さっきまでみずみずしかったキュウリが、明らかにしなっと萎れている。
これはマズい。
「ウーヌス、ヘルプっ!」
私ひとりでは荒ぶるキースを止めることが出来ず、ウーヌスに助けを求めた。
今、必死にキースの腕にしがみついているのだけど、キースはこのまま私ごとキュウリに斬りかかりかねない。
冷静沈着に見えたキースがこんなにも荒ぶるなんて、彼にいったいなにが?
ウーヌスは私の呼び声に慌ててやってきて、それから状況を見て、すぐに察したようだ。
「キースさん、落ち着いて。一度にたくさんのキュウリは必要ありませんし、ましてや、そんなものを振り回したら、キュウリが萎びて食べられなくなります」
「こいつら、リィナで遊んだんだぞ? 制裁が必要だっ!」
駄目だ、聞こえてない。
いや、きちんと返答しているから、聞こえてるけどまったく制止になってない。
これ、どうすればいいの?
まさかの事態におろおろしていたのだけど、キースは荒ぶっている割には私を振りほどいてキュウリに斬りかかろうとしていない。
ま、まさか……?
キースの腕にしがみついていたのだけど、スルリと外すとキースも同時に構えを解いた。
もう一度、腕にしがみつくとキースは武器を構えた。
結論。
「キュウリとキースさんっ! 私で遊ばないでくださいっ!」
「……バレたか」
「バレたか、じゃないですよっ! なにしてるんですかっ!」
「いやぁ。リィナの反応が可愛すぎて」
「キースさんもキュウリと即席で結託しないでくださいっ!」
私が怒鳴ると、キュウリはまたもや「しぎゃぁぁぁ」と威嚇をして、棘をシャキッと出してきた。
さっきまでの萎びた姿は演技だったとでもいうの?
なにこれ、キュウリ怖い。
「さて。キュウリを収穫するか」
キースが近寄ると、キュウリは急にシナッと大人しくなった。
それではと思って近づくと、シャキッと棘を出す。
なんなの、キュウリっ!
ウーヌスが近寄っても威嚇はしてこない。
ということは。
「キュウリって女の子だったのっ?」
「あぁ? そもそも野菜に性別なんてあるのか?」
そんなの知らないけど、私が近づくと……。
「しぎゃぁぁぁ」
なにこれ。
でも、私だけかと思っていたら、トレースが近寄ろうとしても威嚇をしていたから、どうやら収穫する人の性別ではなさそうだ。
それにしても、いったいなにが違うというのだろうか。
キースとウーヌスがキュウリを収穫してくれたので、とりあえずはよしとしよう。
……私が収穫しないと経験値が稼げないような気がしないでもないけど、気のせいにしよう。
なんたって近寄ろうとしたら威嚇されるからね!
……キュウリに威嚇されるって、それ、なんてクs(r
ごほん。
気を取り直して、次はトマトといきますか。
トマトは噛むんだっけ?
なんかトマトにも遊ばれそうな予感。
こちらもキュウリと同じように支柱に支えられていた。
私が近づくと案の定、トマトはさらに真っ赤になって歯をむき出しにしてカチカチと威嚇してきた。
トマトに歯があるって、これ、どうやって調理するの?
トマトは先ほどのキュウリのやり取りを見ていたからなのか、キースが近づくとせっかく真っ赤に熟して遠目からだと美味しそうに見えていたのが、急速に緑色に変化していく。
キースが離れて私が近づくと、真っ赤になって威嚇してくる。
私たち、激しく野菜に遊ばれてるのですが。
「あなたたちがリィナさんのことを好きなのは分かりました」
「なにっ!」
「キースさん、あなたが出てくるとややこしく……」
「許さんっ! 野菜のクセしてリィナに色仕掛けするとはっ!」
あのぉ、野菜に想われてもまったくもって嬉しくないのですけど。
あ、キースがまたなんかあの炎が吹き出した剣を取り出したっ?
「ちょ、ちょっとキースさんっ!」
「おまえら全員、叩き斬ってやるわっ!」
「あーっ! 待って待って! もう! ウーヌスが変なことを言うから!」
「事実を述べ」
「こういうときは嘘でも方便なのよっ!」
野菜を取りに来ただけのはずなのに、なんでこんなにも騒がしいの。
しかもキースが予想以上にやんちゃというか、落ち着きがない。
なんだろう、あれなのかしら。「残念なイケメン」ってヤツ?
キースのことは楓真の動画でしか知らないのだけど、もしかしなくてもこっちが真実の姿なのかもしれない。
でも私としては、動画のようなまぶしいイケメンより、こっちの方がずっとよいと思うのだ。
まぁ、私にどう思われようとキースには関係ないと思うけど。
トマトの後、まだジャガイモの狩り(収穫ではないのが痛いほど分かった)があるのに、こんな調子で大丈夫?
しかもまだ今日は始まったばかりだというのに、なんだかグッタリなんですけど。
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