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Slumming そして Bedroom
スラミングという言葉は本で知った。
母親の持っていた本だ。
スラム街を見物に行く、という意味らしい。
自分よりもレベルの低い場所をさまよう。
自分の本来のレベルよりも低い能力の仕事を渡り歩く。
そういう意味にも使われる。
夜の街で。
子どもと大人の中間くらいの、そういう世代が集まる場所をのぞきに行くことはあった。
地面に座り込んでむくんだ脚と顔をさらしている女の子。
姿勢が悪くて歯並びが悪くて不潔臭い。そういうふうにしか見えなかった。
髪を脱色した男たちも、虚勢を張った田舎者にしか見えなかった。
たまに驚くほど見た目の良い男がいて、そういう奴とは話をした。
だいたいは女から食わしてもらっていたり、やばいものを売りさばいている男だった。
溜まり場よりも夜のオフィス街を散歩するのが好きだった。茅場町や浜松町。たまに皇居の外周路。
道に迷った観光客のふりをしていれば警察官もそれほど咎めることはしない。
ひとの気配が無くて、東京タワーがろうそくみたいに灯ってて。
二十四時に東京タワーがふっと消えてしまう瞬間を見届けたかった。
スラミングしてるだけ。自分には溜まり場なんか必要ない。そう思ってた。
自分には帰る場所があるんだって思いたかった。
居住地はなかなか定まらない。常宿になっているホテルの部屋に戻ると、母親は大抵、不在だった。
ホテルの部屋はいつも乾燥していて、だから母親の使っている保湿ローションを使う。
甘ったるい香りを身体に染み込ませて、母親のストールを巻き付けて眠る。
明け方に母親がベッドに戻ってくる。
頬に吐息が触れるけど、俺は気が付かない振りをする。
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