カメラマンsideそれぞれの哀しみの道

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カメラマンsideそれぞれの哀しみの道

 (だから俺は此処に居るんだ。この景色に魅入られて居るんだ。この地に呼ばれたから、此処に居るんだ) 俺はあの時、社長と話ながら、哀しみの道と此処と結び付けた。 まだ見たこともないはずの丘と……  「それって何? 確かビ何とかって」 「あっ、ヴィアドロローサ? 確かベンハーって映画に……」 「あ、ベンハー? 俺も見たな。確かキリストが十字路を背負わされて……」 「その道が、ヴィアドロローサって言うんだ。エルサレムの哀しみの道だよ」 「哀しみの道?」 「うん。俺にはそれが彼女が歩かされた棘の道のように思えてね。実は午前中、監督と面会していたんだ。実は監督は……」 ハッとした。 まさか……あのことを言うつもりだったのか? 彼女が実の父親に犯された事実を…… 俺は何てバカなんだと思いながら、頭を抱えて踞り号泣した。  「実は監督には恋人がいて……、それが俺の同棲相手だったんだ」 苦し紛れにそう言った。 出来損ないの頭の中で、言い訳を必死に考える。 海翔君にも…… 彼女にとっても身近な存在の海翔君だからこそ…… 秘密は絶対に守らなければならない。 そう思った。 そうしなければ、彼女が此処で生きて行けないと思った。  「えっ、同棲?」 「ヌードモデルだったんだ。監督の仕事を紹介してくれたのは彼女だったんだ」 「つまり、監督の知り合いか?」 「そうだよね。そう考えるのが妥当だよね。でもまさか……、恋人だったなんて知らなかった」 「でも、それがどうして橘遥さんに結びつくんだ?」 (きた。そうきたか? あちゃ。口から出任せだったから考えていなかった。社長は確かに彼女が俺を愛していたと言った。だから監督は……) でもそれが、ある真実を浮かび上らせた。 それは、監督が彼女をAVの撮影に器用した経緯だった。 監督は元カノを奪った社長と、恋人を奪った俺に復讐するために、俺の目の前で許嫁である彼女をいたぶったのではないのだろうか? (つまり、やっぱりターゲットは俺だったのだ) そう確信した途端に俺はワナワナと震え出した。 だから俺は又、言わなくてもいい真実を何も考えず言ってしまいそうだった。 仕方なく…… 同棲相手との出会いから話すことにした。  「トイレに行くために急いでいたら、障害者用の扉が突然開いたんだ。俺はただ驚いて動けなくなってた。そしたらいきなり引き摺り込まれて、『早く出して』って言われたんだ」 「えっ、ずいぶん大胆な人だね」 「そうなんだよ。慌てていたら、『馬鹿ね。オシッコよ』って言うんだ。だから俺は、尿道を開放したよ。もう限界だったからね」 「でも、待ち伏せしてまで遣りたいことと言ったら一つだな」 「普通そうだよね。手洗いが終わった後で、彼女は俺の股間を擦ってた。その時『まだチェリーボーイなんだってね?』って言われたんだ」 「チェリーボーイ!?」 「その本当の意味も知らずに頷いたら、『だったらそれにサヨナラナラしない? 今此処で』って彼女は鏡越しにウィンクした」 「そりゃー、戸惑っただろう?」 「うん。俺が童貞だってこと噂で知って……、急に遣りたくなったらしいんだ」 頭の中で整理する。 又バカなことを言ってしまわないように…… 「その後で『時間無いんでしょ? いきなりでいいよ。ホラもう、大きくなってる』彼女はそう言いながら、俺の股間を彼女の局部に近付けた。俺は彼女に急かされるままにそれを挿入させたてしまったんだ」 「遣っちまったか……」 「ああ遣っちまってた。彼女言ってた。『あぁ、思った通りだった。若いからビンビンきてるの感じる。凄いわー。ねえ、私の恋人にならない』っていきなり言われて面食らったけど、俺は鏡越しに頷いていた」 「交渉成立か?」 「ああ、だから俺……。優柔不断がも知れないけど彼女と同棲を始めたんだ。でも、あの行為の後で気が付いた。俺の股間にゴム制の物が掛かっていることに」 「ゴム製品? 彼女、積極的な割りに賢い人だな」 「『スキンって言うの。スキンシップのスキン。だからさっきのあれもスキンシップなのよ。私と遣る時は必ず付けてね。病気を移さないためよ』彼女はそう言って、何食わない顔で障害者用のトイレから出て行ったよ」  「ところで、彼女一体何者?」 「彼女は俺の通っていた映像の専門学校でヌードモデルをしていて、監督とも交流があったらしいんだ」 「もしかしたら、何日もトイレでずっと君を待っていたのかな?」 「どうして?」 「だって其処の専門学校は彼女の仕事場でしょ?」 「そうだけど……」  「だったら普通、スキン何か持って行かないよ。きっと、ずっと君が好きだったんではないのかな?」 「あっ、そう言えば社長が彼女が俺のことを愛していたと言っていたよ」 又脱線しそうな雰囲気だった。  「やっぱり。だろうと思った。彼女はきっと本気で君に……、君の才能に惚れ込んでいたのかも知れないな」 「いや、俺には才能なんてないよ」 「だったら、監督に君を紹介なんかしないと思うよ」 「そう言えば、彼女が『良い映像を撮る人を探しているのよ。彼処で腕を磨けばきっと何処でも通用するから』って言った時は小躍りして喜んだよ。俺にとっては神……、いや太陽みたいな存在の人だったからね」 「監督は報道では有名人だったからね。憧れていたんだろ? 彼女はそれを知っていて………」 「ああそうさ。監督は俺にとっては夢への道標だった。だから彼女にも言ってた気がする」 「きっと、だから紹介してくれたんだな」 「そうかも知れないな。彼女の好意が嬉しくて、俺は喜び勇んで指定された場所へ向かったんだ」 「それがあのスタジオかい?」 「うんそうだよ。でも、見て驚いた。それは、グラビアの名前を借りたAV撮影だったんだ」 「それが橘遥さんとの出会い?」 「そう、あれが彼女との出逢いだった。俺、あの時カメラマンとして恥ずべき行為をしてしまったんだ。こともあろうに、カメラを監督に預けて彼女を犯してた。監督はそのカメラで俺を撮影して、ディスクにやいて社長に送り付けたんだ」 「例のバースデイプレゼン?」 「そう。社長室でその現物を見た時は震えたよ。だから土下座をしていた。幾ら謝ったって済むことではない。でもそうせずにはいられなかった」 「監督も罪なことをしたね」 「俺から恋人を引き離すために彼女を……。まだうぶな乙女だった彼女を傷付けた。だからかな? 俺が彼女の中でイッた時、物凄く滲みたらしいんだ。皆で無理矢理遣って深傷を負わせたんだと思う。それでも彼女は、俺のが消毒してくれたって言ってる」 「それほど彼女は君が忘れられないんだね」 「俺あの後、家に戻ってからヌードモデルの彼女と出来なかったんだ。その時、『あの時の声が忘れられない? 初めての時なんて皆あんなものよ。監督が後腐れのないヤツだって言っていたから大丈夫』って言ったんだ」  「後腐れ? それって酷いな」 「彼女……、全部知ってた。橘遥さんが処女で、全員に遣られることを。だから俺、彼女と生活することが耐えられなくなったんだ」 「監督だってきっと、こんな仕事はやりたくないはずだよね?」 「ホラ、元々報道関係では名前が通っていた人だったからびっくりしたよ」 「なんでこんなことになってしまったんだろ?」 「監督は、彼女が俺と同棲している事実を把握していた。詳しく調べてみたら、元カノの子供と許嫁だった訳だ。監督の情報網を駆使すれば、それを割り出すくらいは簡単なことだったのだろう。俺への仕返しだったんだ」  (あれっ? 元カノって、何でこんな話になったんだ) そう考えている内に気が付いた。 監督と社長の秘密をバラしてしまったことに…… 俺は青ざめた。 「解っているよ。実は昨日、此方に戻る前に親父と一緒に……。社長は監督とのことを……」 「えっ!?」 「社長が監督の恋人にプロポーズしたってこと。その人が橘遥さんのお母さんだったってこと……、話してくれたんだ。明日君には打ち明けるって言っていた。俺も辛いが……、君はもっと辛いと思う。でも決して、橘遥さんにはバラしてはいけない」 「俺、優柔不断だからな。それで海翔君にも言ったのかな?」 「そうかも知れない。君が背負う物が余りにも重すぎるから、だから俺にも話してくれたのかな?」 「背負う物って?」 「それを俺から言わせる気かい?」 ハッとした。 きっと海翔君は全てを知っている。でも、彼女のために言わないだけなんだと思った。 俺より…… もしかしたら多くの物を背負っいると感じた。  「俺、帰ってきてから監督のことを色々と調べてみたんだ。俺にも良く判らないけど、どうやらヤラセで番組を故意で制作して責任を取らされたようなんだ」 「ヤラセ?」 「監督は現地で病気になったらしいね」 「高熱で苦しんでいたことは聞いたよ」 「有鉤条虫ってのが原因らしい。サナダ虫みたいなのが豚の体内にいるようだ」 「豚!?」 俺は耳を疑った。 今目の前で草を食べながら土地を開墾している豚。 それが監督が病に倒れた原因だったとは…… 「豚は良く焼いて食べないといけないって知っているだろう?」 「ああ、何か菌が死なないとかだよね?」  「生焼けの豚肉をそれとは知らずに食べて、寄生虫が脳に入り込んで痙攣を起こしたそうだよ」 「怖えー!!」 「そう、怖いそうだよ。衛生面では日本の豚肉は世界一安全のようだよ。でも、海外ではそうはいかないようだ。豚の寄生虫が人間の体に入り、その排泄物を食べた豚が汚染されて行くようだ」 「うわ。聞いているだけで気持ち悪くなった」 「監督は日本に戻ってから手術して治ったようだが、スタッフが亡くなっている。その家族が又頭角を現してきた監督にヤラセを仕組んだと、当時は言われていたようだ」 「逆恨みかな?」 「そうかも知れない。もし、背負わされた借金のためのAV撮らされたのなら最悪だな。監督も社長も彼女も……」 「社長は監督とは親友だとか言っていたからな」 「だから色々と聞こえていたらしいよ。当然のこと、借金を申込まれるのだろうと思っていたみたいだ」 「でも結局何もなかったみたいだね」 「そのことも含めて君にも話すとか言っていたね。それが面会だったのか?」 その言葉に俺は戸惑った。 もしかしたら、彼女と監督との関係も話してしまったのではないかと思って…… さっきの背負う物が本当は何だったのか気になっていた。 「俺には秘密にしろって言ったくせに……。社長酷いな」 俺はワザと落ち込んで見せた。 その後で海翔君の反応を見るためだった。 社長が何処まで話したのかを知りたかったのだ。  全てヤラセが原因だった。 だから、番組から追放され多額な借金を背負わされたようだ。 仕事に疲れた監督が投げやりになって、貯めていた映像でいい加減な番組を製作した訳ではないらしい。 それは元々仕組まれていたのだ。 それを仕掛た犯人こそ、その亡くなった人の家族だったのかも知れない。  「ごめん海翔君。俺、どうかしてた。『娘には聞かせたくないんだ。悪いけど、一生背負って行ってくれないか』って、社長からそう言われている。俺一人が背負っている訳ではないね。皆それぞれの哀しみの道を歩んでいるんだ。そんなことも解らなかった」 「それぞれの哀しみの道をか?」 「監督も社長も、皆それぞれ苦しいんだ」 「そうだから、橘遥さんのためにも頑張ろう。結婚まで後少しだからね」 「あっ、又仕事忘れてた」 俺達は慌てて、業者に連絡を入れた。
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