カメラマンside俺達親友?

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カメラマンside俺達親友?

 「四月一日。エイプリルフールの日に、愛の鐘完成記念祝賀会と入社式を執り行う。決まっているのはそれだけでしたが……」 「時間がないから、何かと不便を掛けると思うがよろしく頼むよ。我が社の威信にかけても頑張ってくれたまえ」 「はい。全力で頑張らさせていただきます」 俺は再び頭を垂れた。 「それでは、これから海翔君との初の打合せに出発致します」 「おう、もうそんな時間か? 海翔君にくれぐれもよろしく頼むよ」 「はい。かしこまりました」 俺は軽く会釈をしてから、駅へと向かう道を目指した。  その足で、海翔君のいる田舎へと向かう。 幸いなことに世間は卒業式ラッシュだ。 そのシーズンだけに使える青春十八切符を又手にしていた。 これを使えば安上がりに何度でも往復出来る。 俺は今回のプロジェクトを絶体に成功させるためにも頑張るつもりだったのだ。 鈍行や快速しか使えないから時間はかかる。 でも、その時間をアイデアを纏めるなどして、有効活用出来ると思ったのだった。 でもこれは海翔君の受け売り。 そして、この切符も海翔君からのプレゼントだったのだ。  愛の鐘は言い出しっぺの海翔君に任せようと思っている。 問題は無人チャペルだ。 礼拝堂に祭壇だけは造らなければならないだろう。 とても、二週間では間に合わないからだ。 既存住宅を移築する方法もある。 レールやコロなどを利用して家毎動かすやり方だ。 でもそれをするには、大勢の協力者や事前の準備が大変だと思った。 結局俺は何も決められないまま、貴重な時間を無駄に過ごしただけだったのだ。 それでも、問題点は把握出来た。 それだけでも大きな成果だと思うことにした。  駅では海翔君が待っていてくれた。 その傍らには、バイクが置いてあった。 実は海翔君はホワイトデーの翌日に会社に呼び出された時、これに乗って帰ったのだ。 だから、愛の鐘プロジェクトの担当になった俺があの切符を譲り受けた訳だ。 現場は海翔君の住む田舎だから、俺が通うことになった訳だ。 彼は親父さんから電話を受けた翌日、漁業組合へ連絡を入れて休みを貰った。 青春十八切符を手配を済ませ、最寄り駅から電車に乗ったのだ。 きっと何度か往復するかも知れないと思ったからだそうだ。 そのお陰で俺は此処に居られる訳なのだ。  俺達は早速バイクに二人乗りをして、その現場に向かおうとした。 でもヘルメットの紐が短すぎて、頭にすっぽり入らないし、首も痛くてたまらなかった。 「みさとさんって顔小さいんですね」 俺はそのヘルメットがみさとさんのだと思っていたのだ。 「紐は調整してくれ。うん、そう言われてみれば小さな方かも知れないな」 あのハロウィンの悪夢撮影の日に、みさとさんを自分のマンションまで乗せた海翔君。 あの日、彼女は二人を兄妹だと思ったと聞いた。 それが今や夫婦だ。 その経緯は聞くも涙。 語るも涙ではなかっただろうか? 俺は根掘り葉堀り聞いてやろうと思っていた。  海翔君は俺を後部座席に乗せて快適に走っていた。 でも着いたのは以外な場所だった。 「まずは腹ごしらえだろう?」 そう…… それは隣町にあると言うファミレスだった。 「実は昼飯まだだったんだ。それに此処なら打ち合わせも出来るしね」 俺は海翔君は行為が嬉しかったんだ。 それにしても海翔君は凄い奴だと思った。 俺と同じチェリーボーイでありながら、みさとさんのためにそれを守り切った訳なのだから。 俺は、ヌードモデルの彼女の言いなりになってそれをくれてやってたのだ。 雲泥の差だと自覚し反省した。 今更遅いとは思うけど……  まず花の調達からだった。 海翔君の作った小さなハート形の花壇の回りに大きな花壇を作る。 其処に咲かせるのは花屋に並んでいるありきたりの花ではない。 最も身近な植物。 海翔君がみさとさんの好きな菫で飾ったように、俺も彼女の好きな諸葛菜で飾ろうと思っていた。 諸葛孔明が戦の前に全国行脚して蒔いたとされるオオアラセイトウとも花大根とも呼ばれる。 早春に咲くカタクリ。 紫色に染まるツルニチニチソウ。 白いスノーフレーク。 黄色と白の蒲公英。 ピンクのレンゲ。 色とりどりの花がすぐ目に浮かんだ。  その前に、海翔君は何故今回のプロジェクトを思い付いたのかを話し出した。 きっかけは、卒業論文だったそうだ。 本当はみさとさんと結婚した時点で卒業は諦めたようだ。 それでもみさとさんは一生懸命だった。 遂に根負けして……  テーマは日本の未来だった。 TPPによる安価な食料輸入によりもたらせられる様々問題を取り上げていた。 「俺は此処が好きだ。生まれ育った此処が好きだ。でも今……」 海翔君が泣いていた。 海翔君は経済学部に籍をおいていた。 だから卒論にと、日本のこれから向かう先を模索していたようだ。 「みさとにも言ったんだけど……。気分転換に小説を読もうとしてあるサイトにアクセスしたら、減反政策を廃止する案があったんだ」 「えっ、それって何?」 俺は思わず聞いていた。 「なんでも安い輸入米を食べてみたら不味かったから、減反政策を廃止して米を輸出したらどうか。という物だった」 「おっ、それグッドアイデア」 俺は思わず言っていた。  海翔君は以前東南アジア諸国で暮らしていた。 だからタイ米は当たり前だったそうだ。 でも日本の米を食べている内に慣れてしまって、タイ米を食べなくなったそうだ。 「その時思ったんだ。その主婦が書き込んだように世界中に日本の米を輸出するべきだとね」 海翔君はそう言いながら、その主婦の主張をノートに綴った物を見せてくれた。 その表紙には『エイプリルフール・愛の鐘プロジェクト』と書かれていた。  【学生時代から小説を投稿してきた主婦です。 TPPが話題に上がり、物はためしに安い豪州米を購入してみました。 粘りもなく、不味い。 そこで思いましてた。 減反政策やめてどんどんお米を作って輸出したらどうかと。 農家は収入が減るでしょう。 減反政策の補助金が減る訳ですから。 でもその補助金は全部国民が納めた税金なのです。 減反することでお米を作らなくても収入になるシステムを考え直していただけますと嬉しいです。 日本のお米は美味しいから大丈夫です。 その時には、お米パンも一緒に紹介すると全世界に受け入れられると思います。】 そんな内容だったようだ。  そこでみさとさんテレビで紹介されていたパーマカルチャーをアイツに話したそうだ。 まず草の根を鎌で切った後に種を撒いて、上に刈った草を乗せておくんらしい。 水もあげなくても、立派な野菜のが育つのみたいだ。 一番向くのはレタス。 レタスには虫が付き難いんだって。 いや、びっくり。 だから最初はこれからやったらいいと思った。 春菊も虫が付き難いので、パーマカルチャー向きだと言える。 パーマカルチャーは耕作放置地での確かな戦略になりうる可能性を秘めていると思ったのだ。  海翔君はみさとさんの話しに目を輝かせたそうだ。 ワザとではなくて自然だったようだ。 それに気を良くしたみさとさんは次々とテレビで取り上げていた話題の農作業を紹介していったようだ。 それが、あの豚の耕作地へと繋がる訳だ。 俺は気を良くして、愛の鐘チャペル化計画案を海翔君に提出した。 海翔君が目を丸くする。 俺はこの時、必ず成功することを確信した。  「それにしても……、愛の鐘をチャペルの一部にしてしまうなんて考えもしなかったな」 「いいアイデアでしょう? チャペルは元々礼拝堂って意味だから、神父様が居なくても良いのかな? なんてね。本当は其処にスタジオがあればいいんだけどな」 「スタジオ? どうして?」 「ホラ、結婚式には記念撮影が付き物だろう。衣裳なんてなんだっていい。ただベールさえあればそれでいいんだ」 「そのベールをハートの花壇で作ってもらおうよ。それこそ、初めての共同作業だ」 海翔君が言い放つ。 俺はただ頷いていた。 「スタジオも何時か作りたいね。そうすれば此処にずっと居られるでしょう?」 「そうだね。共同生活なんてことも出来る」 「いや、俺はヤだね。みさととイチャイチャしたいから」 「それは、俺だって彼女とイチャ……。いやぁ、若いっていいね。羨ましいぞ」 俺達は何時の間にか親友みたいになっていた。  社長が海翔君のことを盛んに誉めていた。 みさとさんを監督達から守ってくれたからだろう。 海翔君があの場所に居なかったら、みさとさんも彼女みたいに犠牲者になっていたのだから。 でも海翔君の話によると、あの場所を彼が通り掛からなければ拉致事件その物が発生しなかったかも知れないけど。 そうなんだ。 みさとさんと兄貴がイベント広場で落ち合ってさえいれば、今回の間違い拉致事件は起こらなかったかも知れないのだ。 「いや、本当に反省してる。みさとに深い傷を追わせてしまって、申し訳ないと思っているんだ」 「だから余計にみさとさんが愛しい?」 「だからってことないよ。俺は元々、みさとが大好きだったんだから」 「だから、ホワイトデーに張り切ったなかな?」 「そうだよ。ああー、マシュマロキスもっとしたかったに……誰かさんが邪魔してくれたから消化不足だよ」 冗談っぽく海翔君が言った。  海翔君の作った花壇の周りは竹製のキャンドルスタンドだった。 でも余り準備が出来なかったらしい。 そこで花壇の中心に一番大きな竹を置き、残りを周りにバランス良く配置したそうだ。 周りの竹に火が灯るとキレイなハートの型にアートになったそうだ。つまり、夜ライトアップする代わりに蝋燭の灯でロマンチックな演出をしょうと思ったらしいんだな。 手伝ってくれた人に言われた火の着かない工夫をした後で。 竹の中に薄べったい石を入れただけだそうだが、これは良いアイデアだと思った。  海翔君の親父さんは、電話であの愛の鐘を建設することになったと言われた時、嘘だと思ったらしい。 前日お披露目したばかりだから信じられる訳がないのだ。 でも今日、俺のアイデアを聞いて更に耳を疑ったようだ。 俺はその鐘を、神父様のいないチャペルの一部にするつもりだと言った。 つまり、二人だけで愛を誓う場所になるのだ。 此処に訪れてくれた恋人達へ、ささやかなサプライズプレゼントになるはずだった。 そして何時か…… そのチャペルの中にスタジオが出来ればいい。 そう、それこそが俺の夢なんだ。 幸せのカップルの写真だけを撮りたくなったんだ。 もうAVの撮影はお断りだ。 監督のように、命の危険も顧みない報道カメラマンになるのもお断りだ。 俺は彼女と幸せに暮らせればいいと思っていた。  「そうだ。そのチャペルの横には、小さなレストランを作ろう」 突然海翔君が言った。 地元で獲れた食材を使って、最高のグルメを作る。 最も、取れたて野菜と魚なら手を加えなくても美味しいはずなのだ。  海翔君は、新鮮な魚を届けてくれると言った。 俺はその時、海翔君が漁師だっけことをすっかり忘れていたのだった。 「そう言えば、漁師だったんだよね? どうしてそんなに本気なの?」 「俺は、俺達の両親の故郷を守りたいだけなんだ」 「骨を此処に埋める覚悟だってことか?」 「あぁ、みさとと一緒なら何処でもパラダイスになる。どう、此処に来ない?」 「そうだな……、それが一番だ」 そう言ってはみたけど、その前から此処で暮らすと決めていたんだ。 でも、一番気になるのは彼女のことだ。 みさとさんが監督達に拉致監禁された事実がバレるかも知れないからだ。
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