序章

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序章

 春の木漏れ日が聴こえる3月。今日も自然に囲まれた森の中で野生動物や植物とお互いが気遣い合う様に生活しているバーンスタイン家は迚も賑やかだ。 ある庭の敷地の一角に居座っている幼女が何か珍しいものを見たように目を輝かせて口を開く。 「ねえ!!お父様見て!! あそこに鳥の大群がいるわ!! なんて名前なのかしら...」 珍しい髪色で有りながらもタンザナイトブルーの様な深い深海色の幼女は、花壇の手入れをしている‘’お父様‘’の手を止めるように語りかける。大体5歳位の女児だろうか。通常なら鳥の大群など自然に囲まれた場所に住んでいてもそうでなくても見たことがある者は少なからずいるはずだが、彼女は全て初めて肉眼でみたと言っているような表情で目を輝かせている。 「ノエル、落ち着けよ... 今父様は忙しいんだから後にしとけって」 ノエルと呼ばれた先程の幼女とは相対的に純白な髪の少年が幼女に対して注意を喚起する。 「ならいっそのこと僕たち全員で父さんのお手伝いするのはどう? そしたらノアもピリピリしないで済むよ!!」 黒猫のような容姿をした少年が白髪の少年の後ろからぬっと姿を表す。それに比例するように白髪の‘’ノア‘’は身体を跳ね上がらせるように驚いた素振りをみせ、その様子を楽しむように黒髪の少年は笑っている。 「3人とも本当に仲がいいね。後少しだけやったら今日はカヌレでも作ろうか。ちょっと待っていてくれ。レオ、もう少しだけ全員の様子を見ていてくれるかい?」 子供達の賑やかな声を聞いて栗色の爽やかな雰囲気の男、いわば‘’お父様‘’と言われている男は楽しそうに頬を緩ませている。 「わかった!!」 黒猫の様な容姿をした少年、レオは父の言葉に対して元気よく返事をする。傍から見たら、保育園児もしくは幼稚園児とその施設の先生のような対話に見えなくもないだろう。 「俺のほうがレオよりもしっかりしてるのに...」 そんな中、ノアは純白な天使のように儚い髪色とは凡そする様に顔をしかめる。 「じゃあレオと一緒にノエの面倒みよーよ!!」 「...うん」 案外単純な提案でも、彼自身の優越感のようなものが満たされたのかノアの表情が少し緩んだように見えた。 「なんで待たなくちゃいけないの?私はどっちも嫌だわ。だって、私待つのは嫌いなんだもの!! ねえお父様、あの鳥は何?」 レオとノアがほのぼのとした会話をしている間にずっと何も言わずに我慢していた我儘な御姫様が吠え始める。 「...ふう、随分とおっちょこちょいな御姫様だね。だけど私はそんなノエルも好きだよ。因みにあの鳥はね...」 ‘’之も日常茶飯事です‘’と言わんばかりの表情で難なく我儘御姫様の対応をこなす。 「...父様、鳥にも詳しいの凄い...」 「父さんは生まれも育ちも自然に囲まれた場所だぞ?これくらい覚えておかないといざ何か遭ったときに何も出来ないからな」 子供達にとって、父が毎日のように自分らが生活している環境に関する知識や今までの父の過去の話などを聞いている時間は自分達の過去や別の記憶をペンキで塗りたくって無意識に記憶から抹消させ、新たな記憶をこの館の主人であり‘’父親‘’のベンジャミンや他の兄弟達、即ち血は繋がらないが形状自体は家族に等しい関係にあるこの人形達と過ごした時間で埋め尽くせる彼らにとって唯一の安堵できる時間であった。
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