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死んでいた魔術師【死者】
空が青い。
蝶のような白く輝く生き物が金色の鱗粉を振りまいて、青と白と金のコントラストが視界に広がっている。
草原から見上げる空はどこまでも続いているようだが、視線をずらせば建物が見えてくる。空が狭いわけではなく、その建物が大きいんだ。大きすぎる。
その建物の名前は、フローレンタム・ヴァーヴァム城。この国、フローレンタムの中心地に位置したとってもとっても立派な王城だ。庭も立派。
さっきは草原って言ったけど別名は庭である。草原並みの広さを有した敷地っていうまあなんとも一般とは遠い場所だ。
その敷地内にいる私はというと、場違いな一般人である。許可はもらってるけど。あーでも一般人とは少し違うな。言い直すと、少し変わった一般の生物だ。
『少し変わった』とか、『生物』とか、その理由については最近ようやく受け入れてきたので、冷静になって思い起こしてみようと思う。
―――――……
パリン。
と、瓶が割れたのは、鈍い光が上がってから数年後のこと。『五番』と書かれた瓶だった。
「緊急事態だ! 騎士団に連絡しろ!」
誰かが声を上げる。水とともに冷たい床に投げ出された私は痛みで意識を取り戻す。
「ぃっ……」
声が出なくて痛くて寒くて、寒くて痛かった。
「おい、今動かなかったか?」
「何を言ってるんだ! そんなわけないだろ!」
意識はあったけど頭はぼーっとしてて、音は拾えるのに意味が理解できるほどではなかった。夢の中のような、興味も関心もない舞台を見せつけられているようだった。
力が入らなくて起き上がれなくて。床に体全体が接していて熱を奪われていた。バタバタと音、というか振動ぐらいは感じ取っていたと思う。
「騎士団の者だ。何があった」
「突然瓶が割れたんです! 危険な生物兵器です、これで拘束をお願いします!」
「手錠か? 準備がいいな。承知した」
影がかかって視界が薄暗くなって、何かが自分の近くに来たことが分かった。体が動かないから、見上げて確認することはできなかったけど。
ぐ、っと腕を捕まれる。
「ぃっ、た」
「ん、喋ったか?」
「なんだって!?」
辺りがザワつく。だけどそれよりも、関節の向きも構わず無理やり立たされて、痛かった。それ思い出して痛みを感じた場所を触る。もう痛くはないが、当時を考えると少し恐怖を思い出す。強い力を向けられることはとても怖かった。
痛みで思わず呻いたら、離れた場所から声が上がる。
「なんてことだ……早く拘束してください! これはすごいことだ!」
「お、おぉ、承知した」
「ぅえっ」
両腕を後ろに回され、強く捕まれる。そのまま背中を押され、両脇を抱えられてフラフラの足で歩かされる。
歩くというか、吊り上げられて運ばれているような状態だったと思う。
「人型、なのか? 地下牢に繋いでおく。その後に説明を頼む」
「はい。騎士団長と、魔術師団長にも同席をお願いしたいのでお声掛けをお願いします」
「そんなに大事なのか?」
「それはもう! 陛下にもお伝えしなければならないでしょう!」
「なんと……!」
この時の私は痛みで周りのことに気を向けられる状況じゃなかったし、事態の大きさを象徴する言葉なんてわからなかった。
―――――…
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