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なんてこった
なんてこった。
顔が熱い。
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公園で一息ついた私たちは
来た道を歩いて戻る。
川原にさしかかった辺りで
不意に千鶴が口を開く。
「ハルさぁ、今日なんか
ずっと心ここに在らずだよね」
「へっ???」
鋭い。鋭いです。千鶴さん。
「なんかあったの??」
心配そうな顔で私を見つめる千鶴。
言うべきか?
千鶴には相澤さんとキスした事を
言うべきなのだろうか。
出会って3日でキスしました。
もしかしたら相澤さんの事好きかも知れません。
って言うのか???
普通に考えて早すぎるよね。
分かってるんだよ、自分でも。
「…言いたくないなら言わなくていいよ。
話したくなったら話せよな。」
千鶴はそう言ってポンっと私の頭を撫でて歩き出す。
無理に聞こうとしないのは
千鶴なりの優しさだ。
別に話したくない訳じゃない。
ただ、軽いヤツって思われたくないんだ。
千鶴にも、相澤さんにも。
まあ、でも千鶴がそんな事思うヤツじゃないって
分かってる。
私が勝手にひとりでビビってるだけ。
言葉にするのが怖いだけなんだ。
「……千鶴」
「んー?どうしたー?」
千鶴にだけはちゃんと言おう。
私はそう決めた。
「2年の先輩に校舎裏呼び出されて
撃退して、千鶴からの生存確認の返信したあと寝ちゃってたって所までは話したよね?」
「え、うん。」
「…実は、相澤さんが来てさ
えっと、その色々あって、キスした」
「…………」
「き、聞いてーーー」
「ええええええええ!?!?」
「ちょ!ばか!声でけぇって!」
千鶴が急にでかい声だすから
目の前にいた人たちが何事かと振り返る。
私は前にいた人たちに謝り、
千鶴の方を見る。
千鶴は目を大きく開けて唖然としている。
それもそうだよね。すまん。
「いつのまにそんな事になってたんだよ、、」
「…わかんない。気づいたらキスしてた。
頭より体が勝手に動いた。」
「好きなの?相澤さんの事。」
「…どうなんだろう。
でも、キスしちゃってからずっと
相澤さんが頭から離れない。」
「おいおい。だから今日ずっと
うわの空だったのかよ、、、」
「そういう事。」
こうして千鶴と話してる間も
頭の中は相澤さんでいっぱいだ。
「……千鶴。
私、どうしたらいいと思う?」
「どうしたらって…
結局どうするかはお前が決めるんだから
そういうのは他人に意見を求めるべきじゃないよ。」
変なアドバイスはしない。
ただ、話を聞いてくれる。
でも、本当に間違ってたらちゃんと指摘してくれる。
千鶴のこういう所大好きだわ。
「だよね〜〜」
「まあ、でもお互いに気になってなかったら
キスなんかしなくね??
案外、相澤さんもお前の事気になってるんじゃないの?」
「…出会って3日で??」
「別に好きになったりするのに時間なんて
関係ないでしょ???」
「うーん。」
「そう難しく考えるなって!
楽に行こう。」
千鶴はそう言ってまた私の頭をポンッと撫でる。
ふと、前に読んだ本の中にあった
格言を思い出した。
『誠の恋をするものは、みな一目で恋をする』
そうだ、多分私は初めて相澤さんの笑顔をみたあの時から
一目惚れをしたんだ。彼女に。
ああ、そうだ。
そう考えると辻褄が合う。
ここで認めよう。
私は彼女が好きだ。
(相澤さんが好きだ。)
そう心の中で唱えると
ふと、さっきまでのモヤモヤが消えて
一気に心の中で相澤さんに対する
好きの感情が決壊したダムみたいに
溢れでてきた。
「うわぁああ」
私は急に恥ずかしくなって
頭を抱えてその場にしゃがみこむ。
顔が熱い。
心臓がうるさい。
「…何してんのそんな真っ赤な顔して
ゆでダコみたいになってんぞ」
誰がゆでダコだ。
「気づいちゃったわ」
「何を??」
「…私、相澤さんに惚れてるわ」
「でしょうね」
何言ってんだ?みたいな顔で
頭を抱えてしゃがみこむ私を見下ろす親友。
「週明けから、どんな顔して相澤さんに
会えばいいんだああああああ」
「…はっ。キスしたくせに
何言ってんの????童貞みたいな事
言ってんじゃねぇよwwwwww」
「うるせぇ!私は女だ!!
乙女心をバカにすんじゃねぇ!!」
女心と秋の空ってか??
夏だけど。今夏だけど。
なんなら、ガンガンに太陽照ってますけど。
めちゃくちゃセミ鳴いてますけど??
「…ま、時間はたくさんあるんだしゆっくりいこう。
焦ってもなんもいい事ないし。お前のペースで
いけば大丈夫だって!」
千鶴は優しく笑う。
「…ゴリラのくせにいい事いうじゃん。」
「ああん????誰がゴリラだって??」
「痛い痛い!すみません!ごめんなさい!
美しいです!千鶴様あああああ」
「当たり前だろ!!!」
(千鶴がいて良かった。)
こうして外に連れ出してくれてなかったら
私はきっとひとり部屋で潰れてたと思う。
時間ならたくさんある。
ひとつひとつゆっくりと相澤さんとの
距離を縮めていこう。
もう、好きってちゃんと相澤さんに
伝えるまでキスはしない。
絶対に。なにがあっても。
今は時間が必要だ。
本気って思ってもらうまで私は
相澤さんの友でいよう。
まずはそれから。
____続く。
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