奇跡

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 訊かなきゃならないんだ。  スマートフォンを握る手に力がこもった。  大きく息を吸って俺は声を出す。 「あの、実は、おばさんに多田野君の事で訊きたい事があって。ご実家の連絡先を知らなかったもので。この電話が繋がって良かったです」 「まぁ、そうだったの。この電話はしばらく契約したままにしておくつもりなの。あなたみたいに電話をしてくる方の為にも。それに、まだそんな気分になれなくてね。それで、私に訊きたい事って何かしら?」 「あの、多田野君って、ペットとか飼ってました?」 「ペット? 家では飼ってないわよ。それに季夜のそっちのアパートの部屋も、もう片付けてね。アパートにも動物はいなかったわ」 「あ……そうでしたか」  やっぱり季夜はアパートで動物は飼ってはいなかった。  季夜の実家にもペットはいない。 「そっちで外で可愛がってた猫くらいならいたかも知れないけど。あの子、動物、好きだから」  季夜が動物好きとは初めて聞いた。  俺の知らない季夜の姿を垣間見て、何だが妙にざわついた気分になる。 「そうですか。あの、変な事を訊いて申し訳ありませんが、ポチって名前に心当たりはありませんか?」  そう言うと、少しの間が出来た。  その間の間、俺は息をひそめた。  期待と不安が入り混じった変な気分だ。 「ごめんなさい。知らないわね。そのポチがどうかしたの?」 「いえ、何でもありません。あの……もう大丈夫です。ありがとうございます」 「え、ええ? それじゃあ」 「はい、本当に……ありがとうございました。失礼します」  電話を切ると、一気に疲れが脳内を駆け巡った。  季夜の家族もポチに心当たりが無い何て。  大きなため息が漏れた。  これからどうする。 「今日はもう……休むか」  行き詰った状況。  もう、何をしたら良いのか分からない。  デジタル時計に目を向けると、今が夜の九時だと告げていた。  アパートに帰ってから四時間以上俺はポチの事で奮闘していたのだ。 「何やってんだか」  その呟きは俺を虚しい気分にさせた。  俺はベッドに身を投げ出すと目を瞑った。  眠気が急激に襲い眠りの世界へと落ちてゆく。  はっとして目を覚ました。  今、何時だ。  起き上がり、棚の上のデジタル時計を見る。  時間は夜の十二時を過ぎていた。  随分寝ていた。  喉が物凄く乾いている。  水でも飲もうとベッドから下りる。  かたっ、と音がして、「ん?」と言いながら音がした方を見る。  床の上に占いの館で貰った涙型の石の付いたネックレスが落ちていた。  季夜との約束の事で頭がいっぱいで、その存在をすっかり忘れていた。  ネックレスを拾うと、手のひらに乗せた。  石の冷たい感触が気持ち良かった。  それは、特別な石なの。  口寄せの石。  占い師の台詞が頭を過った。  有り得ないだろ、と改めて思う。  占い師はこれを使えば季夜の魂を俺の体に呼ぶ事が出来るとか言っていたが、うさん臭すぎる。  でも、もしもそんな事が本当に出来るとしたなら……。  季夜とまた会うことが出来たら……。  俺は、ごくり、と息を呑む。  ベッドに腰掛けて手のひらの上のネックレスを見つめる。  そのまま記憶の中の占い師の言葉を反芻した。    それを身に着けて、集中して多田野さんの事を心から思えば、あなたの体に多田野さんの魂を呼ぶ事が出来るのよ。  そんな……ばかみたいな話。
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