奇跡

6/8
前へ
/24ページ
次へ
 ばかに何かしてないわ。騙されたと思ってやってごらんなさい。 「…………」  騙されたと思って……。  それなら、それなら試してみるか。  目を瞑り、手の中のネックレスを握りしめる。  ネックレスを身に着けて集中して季夜の事を心から思えば、俺の体に季夜の魂を呼ぶ事が出来る。  俺は目を開いてネックレスを首に下げた。  そして再び目を瞑る。  季夜の事を思う。  俺の親友。  大事な存在だった。  季夜の笑顔はいつも俺を満たしてくれた。  季夜がいれば俺は笑う事が出来た。  季夜……。  会いたい。  会ってまた話しがしたい。  また一緒に笑いたい。  季夜……。  季夜……。  季夜……。  俺は強く願う。  季夜にまた会いたいと。  柔らかく、落ち着く匂い。  それが何処からか香って来た。  懐かしい香り。  ああ、これは季夜の匂いだ。  季夜。  心の中で名前をしっかりと唱える。 「住原……」  気のせいか名前を呼ばれた気がした。 「住原……」  俺に馴染んだ声。  その声が俺を呼ぶ。 「住原……」  季夜の声だ。  俺の名前を呼ぶこの声は季夜のものだ。 「季夜!」  目を開き、大声で季夜の名前を言う。 「住原!」  俺の中で響く様に季夜の声で返事が返って来る。 「季夜……なのか?」 「ああ」 「一体何が起こってるんだ? 俺はおかしくなっちまったのか?」  大いに混乱する俺。 「住原は可笑しくなってなんか無いよ。おかしいのは俺の方かも知れない。俺は住原に呼ばれた気がして……それで気が付いたら住原の中にいたんだ。話しまで出来るなんて信じられない」  こっちの方こそ信じられない。  こんな事があるのか? 「本当に季夜なのか?」 「ああ。自分でも嘘みたいだけど本当だ。一体どうしてこうなったんだ?」  これは夢じゃなかろうか。  季夜を感じている。  季夜の声を聞いている。  季夜は死んだのに。  確かに此処に、俺の中に季夜がいる。  俺は自分の頬っぺたを、力を込めてつねる。 「痛っ!」 「何やってんだ!」と季夜。  痛い。  夢じゃない。 「どうして、こんな……あっ!」  俺は胸元のアクセサリーを首を下に曲げて見た。 「これだ! 口寄せが成功したんだ! マジかよ!」  一人興奮していると季夜が「口寄せって何だ?」と訊いて来た。  俺は季夜にネックレスの事を話した。  季夜は、「なるほど、不思議な事もあるもんだな」とため息交じりに言った。 「また季夜と話せる何て……お前、何で死んだりしたんだよ! お前がいなくなって俺は死んだみたいな気分になって……それで、それで……」 「まあ、俺も死にたくて死んだわけじゃないんだが」  そう聞いて、それはそうだな、と思う。 「悪い。死んだのはお前のせいじゃないのに……」 「ははっ。いいよ、謝らなくても」 「いや、無神経だった。本当にごめん。事故なんかで死んで……一番辛いのはお前なのに」 「……まあ、運命だったんだよ。俺は誰も恨んで無いよ。事故を起こした人も大変だと思うんだ。辛いだろうな……うん」  季夜らしい台詞だ。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加