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俺だったら事故で死んだりして相手に責任があったりしたら絶対に恨むだろう。
化けて出てやるくらいに思うに違いない。
季夜には心底感心する。
良いやつほど早く死ぬ、と聞いた事があるが、季夜が正にそうなんだろう、と思ってしまう。
「俺って、やっぱり死んだんだよな。死んだら天国に行ける自信あったんだけど、まだこの世から離れられないみたいで。俺の為にみんなが悲しんでるっていうのに成仏出来てないとか……ははっ。せっかく葬式もしてくれたっていうのにさ。きっと親父は必死で葬儀代を作ったんだ。俺を大学にやるだけで手一杯だったってのに……。葬式って故人に成仏してもらう為にやるんだよな……親には無駄に葬式代払わせたかな」
冗談っぽく言う季夜だったが声には悲しさが滲んでいた。
「そんなに急いで成仏しなくて良いよ」
良くない事なのかも知れないが本気でそう思う。
成仏とはどういう事なのか分からないが季夜が成仏してしまったらこうして話す事も出来なくなるかも知れない。
なら、本当に申し訳ない願いだが、もう少しだけ、この世にとどまっていて欲しい。
エゴイストと言われようがきっと誰もが季夜が側にいてくれるならそれを望むと思う。
まだ行かないでくれ、と。
「ありがとう」
残酷な事を願う俺に季夜は言う。
ありがたいのはこっちだ。
「何か、本当……まだ成仏しないでくれよ……」
出した声はかすれていた。
「どうやって成仏したらいいか分からないんだから出来ないよ。困ったよな。でも住原にまた会えたから良いかぁ」
実に呑気に言う季夜。
「こんな……奇跡みたいな事ってあるんだな」と俺。
「みたいな事じゃなくて奇跡だろ」と季夜。
「そうだな。間違いなく奇跡だ」
何が可笑しかったのか俺は、ふっ、と小さく笑う。
季夜も笑う。
声を合わせて二人で笑う。
今までの、今まで俺が過ごして来た日常が返って来た。
季夜が返って来た。
夢じゃない。
妄想かどうかは自信が無い。
けど、もう何でもいい。
味気ないアパートの六畳の部屋が輝いて見える。
俺の世界はこんなにも眩しかったんだ。
季夜と楽しい時間を過ごした。
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