奇跡

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 下らない事しか話して無いが、季夜の言う事がいちいち笑えた。  死人だっていうのに季夜はめっぽう明るくて、俺の中の陰気そうな幽霊の概念は覆る。  死んだ後でも明るく生きる(いや、死んでいるのだが)季夜。  死んだら体が物凄く軽くなって肩こりが治った、とか嬉しそうに季夜は語る。  お気楽なのは死んでも変わらないのか。  話は尽きそうになく、このまま朝までだって話していられると思った。  次は何を話そうか、と楽しく考える。 「あ……」  思わず声が漏れた。  ポチの事。  季夜本人に訊けば良いじゃないか。  そうすれば全ては解決する。  降ってわいたナイスアイディアに心に更に日が差した。 「なあ、季夜」  興奮気味に俺は言う。  だが、俺の呼び掛けに、どうした事か、季夜から返事が返って来ない。 「季夜?」  返事は無い。 「季夜!」  名前を叫んでもその後にあるのは静けさだけだ。  季夜の声が聞こえなくなった。  それどころか俺の中に感じていた季夜の気配も季夜の匂いも消えていた。 「どうして……あっ!」  俺は思い出す。  季夜を口寄せられるのは一日一回、五分間だけ。  それに、確か口寄せの効果は石を使ってから十日間しかもたないと占い師は言っていた。  たった五分。  たった十日間。  何て短いんだ。  さっきの五分間はとても長く感じた。  永遠にも思えた。  でも実際にはたった五分の時間だった。 「今日、もう季夜を口寄せたから、季夜に会えるのは明日の夜十二時以降か」  ため息が出た。  首が、かくりと下がる。  何故俺は真っ先にポチの事を訊かなかったんだろう。  後悔先に立たず、だ。  また口寄せをして一番に季夜に訊こう。  ポチとは何ぞや。  そのアンサーが待っている。  季夜との時間が、また待っている。  晴れ渡った心のままにベッドに潜り込む。  直ぐに眠ってしまった。  とても楽しい夢を見た。  どんな夢なのかは記憶に残らなかった。  ただ、夢の世界で味わった幸福感だけがある。  それはとても心地良い感覚であった。  しかし、そんな夢も今の現実には敵わないだろう。  絶対に。
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