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けっ。
「何を不貞腐れてるんだ、住原」
「別に」
けっ。
三十分どころか一時間待って貧乏ゆすりが止まらなくなった頃、ようやく俺と季夜の名前が呼ばれた。
待たされて機嫌の悪い俺はむすっとした顔で季夜と共に占いブースの赤色のさらりとした手ざわりのカーテンを捲る。
カーテンの中には黒いワンピースを着た黒髪の若い女の占い師が紫色の布を被せた細長いテーブルの前に静かに着いていた。
「お待たせいたしました。そちらの席にお掛け下さい」
占い師は微笑み、そう言って彼女の目の前にある二つの空いたパイプ椅子を手で示す。
俺も季夜も顔を見合せてから黙って勧められた椅子に座る。
テーブルの上には水晶玉やら占いのカードやらが載っていた。
それを見て俺は改めて、ああ、占いに来たんだな、と実感した。
休日に男二人で占いに行くとか、どうなってるんだ?
とか自己責任ながらに思ってしまう。
「どちらから占いましょうか」
言われて俺は手を上げた。
こういうのは先に済ませるに限る。
占い師は俺に向かって微笑むと、「じゃあ、あなたから。あなた、お名前は?」と訊いて来た。
「住原大です」
俺は、やや緊張した声で答える。
「住原大さんね。えーっと……」
占い師は、手に俺が受付で書く様にと手渡されて書いたプロフィールの用紙を持って、それを真剣な眼差しで眺める。
その様子を見ていたら緊張からなのか俺の顔が突っ張って来た。
俺は背筋を伸ばす。
占い師は顔を上げ、「あなたの運命は良く分かりました。住原さん、今、悩み事はありますか」と言う。
「あー、はい。あの、最近、何だかツイて無くって。どうしたもんかなと悩んでますね」
ぼそりとそう言うと、隣で訊いていた季夜が、「そんな悩みかよ」とくすりと笑った。
くそ、ほっとけ。
笑っている季夜とは対照的に占い師は真面目な目つきで俺を見ている。
流石はプロだ。
「運の悩みですね。では、カードで占ってみましょう」
そう言うと占い師はテーブルの上に裏返しになっているカードを両手でバラバラにかき混ぜた。
そして、占い師はカードを纏め、切ると、テーブルの上に一列に並べて俺にその中から三枚選ぶようにと指示をした。
俺は言われた通り、特に悩むことは無く三枚カードを選んだ。
占い師が、俺が選んだカードを表に返す。
占い師の目がカードに注がれる。
真剣な顔でカードを睨む占い師。
占い師は小さく息を漏らす。
そして占い師は口を開いた。
「うーん、そうね……。あなたは心配する事は無いわ。きっとこれから良い事がある」
「そうなんですか?」
俺はカードをじっと見た。
一枚は太陽が描かれたカードで、もう一枚が、崩れそうな塔の描かれたカード。
あと一枚が羽の生えた弓を持った子供が男と女を空から見下ろしているカードだ。
太陽と羽の生えた子供のカードはともかく、塔のカードは何だか不吉そうである。
俺は占い師の占いに不信感を覚えた。
「そんなに不信がらなくても大丈夫よ。あなたには、恋の予感もあるのよ」
俺の不信気な顔を見てなのか、俺が不信に思っている事を占い師は当てた。
「恋の予感だってさ。良かったな、住原」
季夜が笑って俺の肩を叩く。
「本当に俺の運気は大丈夫なんですね?」
「ええ。大丈夫です。全体的な運勢を見ても住原さんは、今年は発展の時で、行動する事で全てが上手く行く時期です。普段よりも行動的になって動いて行けば大丈夫ですよ。何かやりたい事があるなら是非チャレンジしてみて下さい。ただ……」
占い師の顔が一瞬曇った。
「ただ?」
俺は息を呑む。
占い師は俺と目を合わせた後、カードに視線を落とした。
緊張が場に走る。
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