0人が本棚に入れています
本棚に追加
季夜から聞いた彼女の特徴は、ラプンツェルみたいな長い茶髪に色の白い小さな女の子で片方の目の下に小さなほくろがある、との事だったが。
本当に此処にいるのだろうか。
考えるだけで血圧が上がりそうだ。
「もし、そこの若いの」
背後から声がして俺は振り返る。
杖を突いたご老人がそこにはいた。
茶色のスーツに赤いネクタイと洒落た格好をしていらっしゃる。
一体俺に何用か、とご老人の顔を見つめる。
ご老人は俺に言った。
「まだお若いんじゃ。これからいくらでもやり直せる。死んだらいかんよ」
「え」
俺は固まる。
そして慌てた。
「ち、違います! 自殺何か考えてません! 誤解です!」
「なら、良いが……あんた、思いつめた様子に見えたからの」
「いや、思いつめてはいましたが大丈夫です」
俺ときたらそんな死にそうな顔でいたのか。
「そうか。ここは寒い。早く行きなさい」
そう言うとご老人は優しい微笑みを俺に見せて、行ってしまった。
自殺と間違われるとは。
「はぁ……」
俺は項垂れた。
「おい」
下を向いていた俺にまたもや声が掛かる。
俺はすぐさま顔を上げ「違います! 自殺じゃありません!」と言った。
「自殺?」
目の前の人物は首を傾げた。
子供の様に見える小さな女の子だった。
長い茶髪の、色白の子で、左目の下には小さな黒いほくろがあった。
この特徴……何処かで……。
「お前、ずっとこっちを見てただろ。橋の上に怪しいやつがいるから見て来いってカンさんに言われたんだ」と女の子は言うが彼女の言葉はほとんど俺の耳に入っていなかった。
俺は黙って彼女の顔を穴が開くほど見ていた。
彼女の顔がみるみると険しくなる。
「何だよ。人の顔、じろじろ見て。気持ち悪い。みんなが言う通り、やっぱり不審者なのか?」
毅然とした態度で言う彼女。
何と俺は不審者と間違われている。
いや、確かに不審者めいてはいるが。
そんな事より、この子だ。
俺は思い出していた。
長い茶髪に白い顔。
目の下のほくろといい、季夜の言っていたポチの特徴と似ている。
まさか、この子が?
まだ子供じゃないか?
俺は一歩彼女に近付いた。
彼女が直ぐさま後ずさりする。
「何なんだよ、お前。人を呼ぶぞ!」と彼女が叫ぶ。
「い、いや。ちょっと待ってくれ!」
俺は叫んだ。
「何だよ?」
きっ、と俺を睨みながら彼女は言う。
「あの、あんた、ひょっとして、ポチ……さん?」
俺の質問に彼女は、きょとんとした顔をする。
「…………何で、アタシの名前を知ってるんだ?」
彼女は非常に険しい顔をした。
俺を思いっきり怪しんでいる顔だ。
このままでは俺は不審者として屈強なホームレス達にどうにかされてしまう。
俺は焦りを露にして「俺は季夜の友達です!」と喋った。
その台詞を聞いた途端、彼女は表情を変えた。
「季夜の?」
彼女は瞳を目一杯開けた。
その瞳には輝きが見えた。
「そう、俺は季夜の友達だ。俺は住原と言う」
「住原……知ってる。季夜からお前の話をよく聞かされてる」
「そうだったのか」
しんみりとした。
季夜の母親といい、ポチといい、季夜が俺の話を俺の知らない誰かに話してくれていた事がとてつもなく嬉しかった。
「お前の話をする時の季夜はいつも良い顔して笑ってる」と彼女。
「そうか……」
季夜。
季夜の事を思う。
あいつは今、どうしているんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!