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早く何か言えよ、と思う俺。
俺の念が通じたのか占い師が口を開く。
「今後、何かショックな出来事がある、との暗示が出ています。何かが壊れてしまう様な、そんな暗示があります」
「え」
え、と言って開いた口を閉じる事も忘れ、俺は占い師の顔を見返した。
「恐れる事はありません。何かが壊れた後に、また再生の時が始まりますから」
「はぁ……」
うーん、恋の予感も発展の時も、ぴんと来ない。
しかし、ショックな事なら俺の日常生活に溢れている。
家を出れば財布を忘れるし、寝坊して単位ぎりぎりの大学の講義が受けられなかったり。
これ以上何があるというのか……。
気が付けば季夜が心配そうに俺の顔を見ている。
まぁ、そんなに気にする事も無いか、と俺は自分に言い聞かせ、季夜に向かって、にかっと笑った。
季夜の心配そうな顔が和らいだ。
俺は占い師の方に顔を戻した。
「分かりました。ありがとうございます」
「後は何かありますか?」
「……いや、特には……」
俺は首を横に振る。
逆に、他にまだ何かあるのか、と聞きたい。
占い師が頷く。
「では、次の方……えーっと、多田野季夜さん」
「はい」
季夜は占い師に軽くお辞儀をする。
さて、季夜の番だ。
占い師は手に季夜のプロフィール用紙を持ち眺めた。
その時、占い師の目が微かに曇るのを俺は見逃がさなかった。
「多田野さん。あなた、今、悩みは?」
占い師に訊かれて季夜は首を横に振る。
「特に無いですね」
「そうですか……では、何について占いましょうか?」
訊かれて季夜は首をかしげて見せてから、「じゃあ、運勢を占って下さい」と言った。
「何だよ、俺と同じじゃねーか!」
「あはは。そうだな。まぁ、良いじゃんか」
人の事を散々笑ったくせに何だよ、こいつ。
むくれる俺と笑顔の季夜を前に、占い師は凍り付いた顔をしてカードをかき混ぜた。
さっきの曇った目といい、この凍り付いた顔といい何なんだ。
占い師は黙ってカードを纏め、テーブルの上に一列に並べた。
「さあ、多田野さん、この中から三枚カードを選んで下さい」
「はい、分かりました」
季夜は迷わずに三枚のカードを選ぶ。
占い師がそれを表に返す。
「こ、これは!」
占い師が立ち上がる。
「な、何ですか?」
季夜がビックリした顔でカードを見ようとする。
すると、占い師がカードを素早く裏返して他のカードとかき混ぜてしまった。
「あんた、何やってるんだよ!」
思わず俺はそう言った。
「多田野さん、それと住原さん、お代は結構ですからもうお帰り下さい」
「はぁ?」
何だよそれ、訳が分からない。
「あの、どういう事ですか? 俺の占いの結果に何かあるんですか?」
季夜が落ち着いた口調で訊く。
「それは、答えられません。兎に角お帰り下さい!」
占い師が叫ぶ。
占い師は完全に取り乱していた。
「一体何なんだよ、あんた。季夜のプロフィール用紙を見てた時からずっと様子がおかしかったし」
呆れかえって俺は言う。
季夜は俺の横で、ため息をついた。
「そうですね。あなたの様子は俺から見てもおかしく思えました。あの、俺は何を言われても驚きませんから、何かあるなら言ってもらえませんか。そうでなきゃ、このままじゃ安心できないです」
季夜はとても落ち着いた声で、優しく占い師に話した。
占い師は季夜の目を、じっと見る。
占い師のその目は、まるで、季夜の全てを覗き込んでいるかの様だった。
やがて、占い師はため息一つつくと、椅子に着いた。
「多田野さん、分かりました。あなたには、覚悟があるのですね」
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