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「何の話ですか。俺は、ただ、占いの結果が知りたいだけだ」
季夜は笑みを浮かべて言う。
「強い方ですね、多田野さん。では、お話しましょう。止めるなら今ですよ」
「止めません。どうぞお願いします」
占い師は苦笑いをしてから真面目な顔を作り、「お伝えする前に、念には念を入れて、水晶でも占ってみましょう」と言って水晶玉に手を当てた。
俺は水晶玉を見てみる。
しかし、何も見えない。
占い師には、何かしら見えているのだろうか。
「はぁ……やっぱり」
占い師が、水晶玉から手を離し、がくりと肩を落とす。
占い師の表情はとてつもなく暗い。
「あの、何なんですか?」
季夜が訊ねる。
占い師は季夜の顔をじっと見つめた。
そして、小さく頷いた。
「多田野さん。あなたに、死の暗示が出ています。とても強く。あなたに……逃れられない死の運命が待っています」
占い師は、そう答えた。
季夜が死ぬ。
運命って……。
何だそりゃ。
どうかしている。
一体この占い師は何を言ってるんだ。
「おい、あんた、冗談にしても質(たち)が悪いんじゃないか?」
俺は言ってやった。
季夜が死ぬだなんて、そんな事あるはずがない。
「私は決して冗談は言いません」
占い師は鋭い目つきで俺を見て真面目な顔で言った。
「でも、そんなの、ただの占いだろ!」
俺はテーブルを拳で叩く。
「まあ、落ち着けよ住原」
季夜の手が、俺の拳を包み込む。
「季夜、これが落ち着いていられるかよ! 友達が死ぬだなんて言われて、どうして落ち着いていられるって言うんだよ!」
「ただの占いだろ。俺は気にして無いよ。それに、人間、いつかは死ぬ運命だ」
冗談っぽくそう言って季夜は俺に笑って見せると俺の拳から手を離す。
「あの、俺が死ぬとして、いつ頃死ぬとかって分かるんですか?」
「ええ、分かります」
「教えて下さい。俺はいつ死にますか」
「ちょっと、季夜!」
「良いんだ住原。この際知りたいんだよ。あの、俺は、いつ死ぬんですか」
季夜はあくまでも平静そうに占い師に訊ねた。
占い師は静かに季夜を見つめている。
他にも客はいるはずなのに場は嘘みたいな静けさだ。
俺の心の中だけ、ざわざわと嵐の前触れみたいに騒がしかった。
占い師は、ためらった様に少し黙って季夜の顔を見ていたが静かに口を開いて答えた。
「一週間後です」
一週間後。
そんなに直ぐに。
「そうですか」
季夜は宙を見て、それから、「それは変えられない事ですか」と占い師に訊いた。
占い師は下を向いて「残念ですが、変えられない運命です」と答えた。
「そうですか、ありがとうございました。お題は払います。行くぞ、住原」
季夜が席を立ってブースを出て行った。
「待てよ、季夜!」
俺は慌てて季夜の後を追った。
季夜は占いの館の外で俺を待っていた。
季夜は店の出入り口の扉の直ぐ側の階段の踊り場の手すりにもたれかかってぼんやりと空を眺めている。
俺は季夜に何て声を掛けたら良いのか分らずに頭を掻いた。
俺がいる事に気が付かないのか何なのか、季夜は俺の方を向かない。
数秒後。
「ああ、住原か。先に出て来て悪かったな」
季夜が、バツが悪そうにそう言った。
「別に、いいよ。それより、大丈夫かよ」
「何が?」
「何がって、さっきの占いだよ。あんな事言われて、お前ショックとか受けたんじゃねーの?」
季夜は困った様な表情を顔に浮かべる。
俺の顔も困り顔に変わる。
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