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別れ
俺の名前は住原大(すみはらだい)。
自分で言うのも躊躇われるが、怠け者で平凡で冴えない大学二年生。
俺の隣にいるビーチサンダルの男(今は二月だ)は多田野季夜(ただのきよ)。
俺と同じ大学で、こいつも二年生。
季夜は俺の親友だ。
その親友と二人、休日に暇を持て余し、昼間の街をぶらぶらと歩いていた。
季夜と歩くと、まるで磁石に吸い寄せられる砂鉄みたいに通行人がこちらを見てくる。
季夜は長身で透ける様な茶色いさらさらの髪に、すっきりとした顔立ちをしていてなかなかカッコ良かったから、こうして視線を集めてしまうのだ。
そう、季夜はモテた。
性格も良い奴だから女にも男にも大モテである。
「なぁ、住原、これからどうしようか? 映画でも観るか?」
周りの視線を気にしている俺に、季夜が言う。
「え、映画? 気分じゃねーなぁ。て言うか、お前、相変わらず凄く見られてんな」
あえて指摘してやると、季夜は周りを見回して、「そうかな?」と、頭にクエッションマークを浮かべる。
全く、自覚無し、と来たもんだ。
俺は呆れた。
「そんな事より、なぁ住原、どこ行くよ?」
「うーん、そうだな」
周りの季夜を見る目もうざったいしカラオケでも行くかな。
そうぼんやり思っていると、占いの館の看板が目に入った。
占いの館は小さなビルの二階にある様だ。
ビルの外側にある赤い色に塗られた鉄の階段がそのまま占いの館の入り口まで続いていた。
占い……か。
「なぁ、あそこ入ってみないか」
俺は突然、占いの館を指さした。
ここは一つ、冷やかしにでも占ってもらうかくらいの軽い気持ちで提案した。
最近ツイてない俺。
最近どころか生まれてこの方、ツイていると感じた事は無かった。
唯一、ツイているという言い方をすれば、大学に入って季夜と友達になれた事、くらいだ。
「ええーっ、占いかよ。お前って意外に乙女チックなんだな」
季夜は、にやにやしながらそう言った。
俺は慌てる。
「なっ、違うって! 占いが趣味とかじゃ無くって、何となく入らねーかって言っただけじゃん!」
「何慌ててんだよ。ほら、行くぞ」
季夜は笑いながら占いの館へ続く階段を上り始めた。
「え、ちょっと!」
自分で提案しておいて躊躇う俺の足は動かなかった。
季夜はもう占いの館の扉を開けて店の中だ。
俺は頭を掻いた。
そして、深いため息を吐く。
俺は季夜の後を追う。
階段を上り切ると目の前の小さな看板には薄紫色のチョークで、占いの館、と何とも乙女チックで可愛らしい文字が書かれていた。
先程乙女チック呼ばわりされた事が脳裏に蘇る。
不機嫌な顔をした俺は占いの館に足を踏み入れた。
占いの館の中は狭く、薄暗く、怪しい音楽が掛かっており、おまけに立ち込めるお香のスパイシーな香りで満ちていた。
「遅いぞ」
先に店に入っていた季夜が俺に向かって言う。
その顔は不満そうでは無く微笑んでいた。
「おう」
悪びれた顔を見せて俺は言った。
俺達二人は受付を済ませると、壁際に並べられたパイプ椅子に座り、雑談をしながら順番を待った。
占いの館は意外に繁盛している様で、待ち時間は三十分。
席は全部埋まっていた。
俺達以外、客は全員女だった。
彼女達は、ちらちらと季夜の顔を盗み見ている。
季夜を見ながら何か囁き合っている連中までいる。
あいつらの考えている事は分かっている。
どうせ、季夜を見てイケメンだとか色めき立っているんだろう。
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