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元の世界に
俺が元の世界に帰ってからのミヤシタ院でのリハビリをゴルさんに任せる事になり、ゴルさんもミヤシタ院での治療を担い、リハビリを俺の指導の下行っていたのだ。
そんな時アレフさんが院にやって来て、俺達にその疑問をぶつけた。
「ミヤシタ殿、ゴル殿がリハビリをしているようだがどういう事だ?」
やっぱり、これはしっかりと説明しないとな、そう考えた俺は応接室にアレフさんを案内し、ゴルさんと一緒にまずは俺が異世界人であり元の世界に帰る事になった事を話す。
「まさか!そのような事があるとは……」
「しかしアレフ殿、公にはなってはおりませんが過去にも異世界からの転移者はいたのです」
「そうか、しかし、ミヤシタ殿が異世界人だと分かれば混乱は免れないだろう」
「分かってます、だからアレフさん、最後のお願いを聞いていください」
「最後のお願い?」
「最後の日に俺は王都に呼ばれて、スキル研究の一員になった事にして欲しいんです。この話はすでにザリアンさんやゴルさんともしていますし、領主様や国王陛下にもその話は通っています」
「分かった、それから私よりのせめてもの餞別だが、このままこの入院施設はミヤシタ院として残す事を約束する」
「ありがとうございます」
アレフさんがこの話を街中に流した事で、俺は今までお世話になった人達へのあいさつ回りをする事にした。
まずは……。
「こんにちわ」
「兄ちゃん!」
「ミヤシタさん!聞いたわよ、王都でスキル研究に協力するんですってね!」
「ええ」
「……最初に助けられた時からただもんじゃねえとは思っていたが、まさか王都で研究するなんてよ」
「ダンカンさんとミランダさんにはずっとお世話になってきましたからね」
「何言ってんだ、兄ちゃんがいなかったら今頃俺は満足に動けずミランダにもリンにもいらねえ苦労を掛けちまってたぜ」
「そうよミヤシタさん、それにミヤシタさんが作ってくれたレシピのおかげでリンも少しは嫌いなものも食べられるようになったし」
「また、リンちゃんにもよろしくお願いします、これから移転準備や挨拶回りがありますので」
「そう、改めておめでとう」
「ありがとうございます」
そう言って、俺は果物屋をあとにする、また日をおいて、今度は彼に……。
「あ、ミヤシタさん、こんにちわ。聞きましたよ、王都に行くそうですね」
「まあな、色々挨拶回りや準備もあるし、挨拶をしておこうと思ってな」
「そうですか、ずっとミヤシタさんにはお返ししたかったし、今日は僕が作ったパンを食べてください」
「いいのか!頼むよ」
「ちょっと待ってください、ええっと、あ、これだな。どうぞ」
「いただきます、うん美味しいな。すごいなユーリ君。ユーリ君またお婆さんに何かあったらミヤシタ院の人を頼りにしてくれ」
「はい!ミヤシタさんもお元気で」
パン屋もあとにし、さらに日をおいて、あの人にも挨拶をした。
家の扉をノックするとあの人が扉を開けて俺の前に姿を見せた。
「ミヤシタ様、どうしたんですか?」
「アレフさんに今日はお休みだと聞いたので、挨拶回りにきました」
「そうなのですね、王都での研究協力にもうすぐ行かれるのですよね、おめでとうございます」
「ありがとうございます、ソフィアさんもアレフさんと一緒にお世話になりましたからね」
「いえ、私はそこまで大したことはしていません、むしろミヤシタ様のおかげで弟の好き嫌いが少しづつ克服されましたので、私からお礼を申しあげたいくらいです」
「じゃあトム君にもよろしくお伝えください」
「はい、お元気で」
いよいよみんなにもお別れの挨拶をしないとな、もちろん王都に行く事じゃなくて、俺が元の世界に帰る事を話さないとな。
ヒュー様とあれからもスマホでやり取りして残り3日と迫った日に俺はかつてのミヤシタ・リハビリ・クリニックにみんなを呼んだ。
「おお、ユーイチ、3日後だったよな王都に行くのって、その割には準備ができていないようだけど」
「もしかして準備の手伝いとか?さすがにその為に呼んだわけじゃないよね」
「そうよ、見送りならするからさ」
「……」
「みんな、実は王都に行くというのは表向きそうしてもらっているだけで、俺は3日後に元の世界に帰らなくちゃいけないんだ」
「えええ!」
みんが驚ている、だが無理もないが、俺はそれに至った経緯を話し、みんな呆然としていた。
「ねえ、ユーイチどうしても帰らなくちゃいけないの?」
「俺の役割は果たされたようだし、あとはこの世界で住む人達が頑張らないといけないと女神様は言ってたな」
「そうは言ってもよ、お前は平気なのか?」
「ギベルト、もしギベルトが今の俺の立場だったらどう考える?」
「それは……」
「俺もここでの永住もできればと思っていた事はあった。でもやっぱり俺は生まれた世界でも俺のやるべき事をしなくちゃいけないと思っている」
「それって、やっぱりリハビリなの?」
「それもある、だけどザリアンさんが俺の知識から学んだようにこれまでのみんなと関わった経験を生かしていつかはそれを伝えていけたらと思っている」
「……、ユーイチ様、ユーイチ様が私達や街の人達の為に多くのものを残してくださったと私は思っています、だから私は気持ちよく送り出したいと思います」
「ミミ、できればミミが一人前の聖女になるのは見届けたかったんだけどな」
「そのお気持ちだけで充分です。今までありがとうございました」
「俺の方もありがとう」
「じゃあ私も気持ちよく送り出す為にユーイチ君に最後の料理を振舞うわ」
「飲もうぜユーイチ、最高の酒でな」
「あたしもお菓子を持ってくるから待ってて」
その夜はメルの手料理、ギベルトの酒、ミーザのお菓子、ミミのお茶が並び、この世界でに来て一番嬉しくも寂しい夜になった。
もうみんなと楽しく過ごせないのか、そう思うと俺は涙をこらえるのが精一杯だ。だがそれで泣くとみんなの気持ちも無駄になる。
そして3日後、いよいよ俺の元の世界に帰る日がやって来た。スマホには残り時間が表示されており、転移するところを誰にも見られない為、俺はあらかじめ森へと移動していた。
「ヒュー様、聞こえますか」
『はい、聞こえます。間もなくあなたはこの世界より元の世界に転移します』
「今さらですが、俺がもう2度とこの世界に転移する事はないんですか?」
『ええ』
「そうですか……、せっかく仲良くなれたのに……、こんな、こんな形で……」
『ユーイチ……、別れを惜しむ気持ちは理解できます。ですがあなたの世界でもあなたの帰りを待つ人はいます」
「ヒュー様……」
『転移させた私が申し上げる資格はないのかもしれません。ですがこれはあなたが心の奥底でずっと望んでいた事なのです』
「……、帰りたい、帰りたくない、その気持ちがずっと戦っていて、最後に帰りたいが勝った。そういう事ですね」
『いいえ、そういうわけではありません』
「え?」
そして質問をする間もなく俺は自分の世界へと転移した。
~1年後~
「ではミミ、マスカット地方をお願いします」
「はい、お任せください」
街を出たミミに突如声がかけられる。
「すっかり立派な聖女だなミミ」
「え?ユ、ユーイチ様!どうして⁉」
「ええっとな……」
『私から説明します、私は健康を司る神ヒューです』
「ヒュ、ヒュー様⁉」
『ユーイチ・ミヤシタは確かに1度はこの世界においての役割を果たし、元の世界に帰還しました。ですが帰りたい気持ちと、この世界にとどまりたい気持ちの強さは全く同じであり、彼に転移能力を与えたのです』
「だけど、いろんな制約があって1ヶ月の中の1日しか転移できないんだ」
『それから、今ユーイチの手助けが必要な所を私が指定しているのです』
「先月はミヤシタ院の手伝い、今月、今日はミミの聖女のお手伝いって事になったんだ」
「……また、こうしてお会いできて嬉しいです。時々ですがよろしくお願いします」
「ああ、またよろしくな」
こういう形ではあるが俺は2つの世界でのリハビリの日々を過ごす事になった。
~FIN~
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