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 私にも心当たりがあった。  その感情は理屈を超えて心の奥底から湧き上がってくる。そして、痛いほど胸が締めつけられて、苛々したり泣きたくなったりする。そればかりか、時として言葉や行動までも支配され、攻撃的になったり、酷く自分勝手になったりすることさえある。  ちょうど今日の昼休み、北上くんに対してしたように。  本当はあんな意地の悪いこと言いたくなかった。ねちねちとした皮肉で好きな人を傷つける、嫌な女の子になんかなりたくなかった。  だけど、自分だけを見て欲しいのに誰にでも平等な彼の態度に、私は業を煮やした。そんなことで手に入る心ではないと分かっているのに。 「…………私もやらかしちゃったよ」  珠里ちゃんの話を聞くつもりで持ちかけた話題なのに、つい自分に引きつけて話し出す私。会話泥棒も良いところだけど、誰かに打ち明けずにはいられなかったのだ。 「私も……それで北上くんのこと傷つけちゃった……」  珠里ちゃんは優しくて、自分の話が打ち切られたにもかかわらず、「何があったの?」と私の話に耳を傾けてくれる。  私は、珠里ちゃんが教室を出た後のことや、部室で北上くんに会って交わしたやりとりのことを話した。  ひとしきり話を聞いた珠里ちゃんは眉間に皺を寄せながら俯き、苦々しく言った。 「――――それは……北上が鈍感過ぎるのが悪いよね」  基本的に珠里ちゃんは北上くんに対して厳しい。 「ぶっちゃけ手作りのお菓子貰ってる時点でさ、私はあいつに腹が立ってたよ。何でそんなもの迂闊に貰うんだって。しかも、お裾分けなんかしやがって。そんなことするくらいなら、最初から断れっつーの」 「まあ渡されたら、受け取らないわけにもいかないだろうけどさ。その後の行動には正直、あほんだらって思ったよ」  本当に何の悪意もないから先日のようなムーブに出たのだろうけれども、良くも悪くも些か正直過ぎる北上くんなのだった。 「北上くんがそういう人だってのは分かってるんだけどね、我慢できなかったよ。別にいいんだよ、鈍感なら鈍感で、がさつならがさつで。でもさ――」  厄介なことに。 「こっちが弱ってる時に限って急に察しが良くなってさ。しおらしい感じで優しくされると、どうしたらいいか分かんないよ。そうやって私、ずっと振り回されてきた。散々こっちが呆れるようなことされてるのに、それが高じて憎らしいまであるのに、どうやっても嫌いになれないんだもん……」  片づかない思いが話を面倒臭くしている。  珠里ちゃんはコップに僅かだけ残っていたカモミールティーを飲み干して、少し考えたのちに言った。 「あのさ」  少し遠慮がちに。 「私から言うのもなんだけど……そういう態度とるのって、北上が律子のこと好きだからなんじゃないのかな」  珠里ちゃんの指摘は非常に前向きなものだ。本当にそうならどれだけ良いかと思う。  けれども。 「分かんないよ……」  分からないのだ。好きかどうかを含め、北上くんが私をどう思っているか。  それでも一つだけ確かに言えることはあった。 「ただ……私は好きなんだよ、北上くんが」
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