そこにいる。

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 ほぼ話をしただけでも診察料は貰えるし、そういう患者であっても“寺へ行けやアホ”とは言わずにきちんと丁寧に対応するのが私であったが。 「自分達の苦労と都合で、命が失われたんだ。その原因となった人達を死んだ子供達が祟りたくなるのは当然のことだと思うんだがね。頭痛程度で済んで良かったじゃないか、と思うよ」 「そうね。でも、何人も中絶を繰り返したり、大量に減数手術した人もいるんでしょ?」 「ああ、そうだ。一人に祟られるだけでも大変だろうに、複数の兄弟に祟られようものなら大変なことになるかもしれないね」  よいしょ、と椅子に座り直す話。あまりこういう話をするのは良くないのかもしれない、と思う。ネガティブな話をすると、浮遊霊が寄ってくるなんて話もある。まあ、私自身がそんなに信じているわけでもないのだが。 「……と、話が逸れてしまったが。聖奈、君はこんなおじさんのどこがいいんだ?こんな話聞いても楽しくないだろ?」  何だか、自分まで頭が痛くなってきてしまったよ、と。そう言えば、聖奈は嬉しそうにころころと笑った。 「あら、そんなことないわ。言ったじゃない、私は知らない世界の事が知りたいんだって」 「変わり者だな。そもそも、私だってあと何年も医者を続けるわけじゃないぞ?そうなったら収入だってなくなるだろうに」 「そんなの関係ないわよ。ああ、でも貴方もそろそろ顔色悪いし、ちゃんと健康診断に行った方が良いかも。予期せぬ病気が見つかるかもしれないし」 「やめてくれ、縁起でもない」  本当に、変わった女性だ。こんなつまらない話を聞けるだけで満足だというのか。まあ、自分も若くて綺麗な女性とこうしてデートができるだけで役得だと思うべきなのかもしれないが。  しかし、もうすぐ医者をやめるかもしれないと暗に言っているのに、まったく動じる気配がないとは。それなら本当に、自分の心配は杞憂だったのかもしれない。変わり者だが、一人の人間として私とお付き合いしてくれるというのなら断る理由などないのである。 「大丈夫よ、体壊しても、私がちゃんとお世話するわ。彼女だもの」  彼女は微笑んで――何故か、私の後ろを見たのだった。 「ええ、だから……“最期”まで傍にいさせてね。そのために、私は此処に来たんだもの」
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