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そこにいる。
聖奈と駅前のカフェで初めて顔を合わせた時、私は露骨に彼女を警戒した。いくら、趣味が合ってネットでオフ会しようという話になったからといって、こんな綺麗な女性が私に真っ当な興味を持つとは考えられなかったからだ。自慢じゃないが私はそれなりに年も行っているし(五十歳で妻と離婚してからずっと独身ではあるが)、どう贔屓目に見てもイケメンと呼べる見た目でないことは自覚しているからである。
それでも相手が、私のことを好きになるとしたら理由は一つしかない。
「私の金目当てなら、やめたほうがいいぞ」
嫌われることを覚悟で、私は彼女に告げた。
「開業医なんて、言うほど儲かってないんだから。そんなに大きな病院でもないしな」
「あら、私そういう女だと思われてるの?」
三十行っているか、いないかというくらいの歳だろう。星奈は別れた妻と比較しても格段に美しく、若々しかった。そもそも、自分とは親子ほども歳が離れているだろうから当たり前と言えば当たり前だろうが。
テーブルに肘をつくたび、その豊満な胸がどっしりと上に乗る。衣服の模様が延びてしまうほどグラマラス。いくら私も五十も半ばを過ぎた男とはいえ、少々目に毒ではある。これで水着なんて見た暁にはどうなってしまうやら。
「医者=金持ちだと思っている女性は多いからね」
なるべく彼女の顔を見るように気を付けながら、私は答えた。出逢って早々、胸ばかり見るような不躾な男にはなりたくない。私にだってそれくらいの矜持はある。
「それに、私は自慢じゃないが格好よくもないし、医師としてのスキル以外に誇れるものも何もない。君からするとおじさんを通り越してもうすぐジイさんになりそうな歳だ。そんな男に近づくなんて、遺産目当てと思われても仕方ないぞ」
「そこは安心して。私、お金なんか興味ないわ。私が目当てなのは最初から最後までずっと貴方一人だもの」
「私一人、ね」
「そうよ?お話も面白いし、優しいし、それに……」
彼女はそこでちょっと躊躇うように言葉を切って、僅かな沈黙の後にっこりと笑ったのだった。
「……とにかく、私は貴方の傍にいたいの。結婚したくないというならそれでもいいわ。保険を契約しろなんてことも遺産相続させてくれとも言わない。ただ、彼女として傍に置いてほしいだけ。……それなら、何も心配はないでしょう?」
そっと白い指が私の手に触れる。私も一応いっぱしの男ではある、若い女性に触れられて、ドキドキしないはずがない。
「ね、今日はお仕事のお話を聞かせてよ。私みたいな未婚の一般人には完全に未知の世界だもの、気になるわ」
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