耳の雨音

4/6
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 章介の母は私を庇う様に「後日、きっちりさせましょう」と言い、陽菜の両親と連絡先を交換して帰らせていた。私はその気遣いが惨めに感じて、その場を逃げ出したかった。そうしなかったのは、章介の両親、私と私の家族が周りから好奇の目で見られていたからだ。ここで逃げ出したら、運命に負けるような気がした。 「美波ちゃん。あの陽菜って子の事は、章介からどう聞いていた? きっと気の迷いよね?」  章介の母は未だ息子の事を信じたいようだった。 「……赤ちゃん出来たって、章介さんから事故の少し前に聞きました。自分にとって、大事な女性だって……申し訳ないが、別れて欲しいと」 「……何て馬鹿な事を……美波ちゃん、本当にごめんなさい」  自分だって息子を亡くし辛いのに、私のために泣きながら謝ってくれている。 「……」  耳の中の雨音が激しさを増して、立っていられなくなった。スコールのような雨音の向こうで、章介の母が何かを叫んでいた。私の雨は、これよりもずっと前、章介の告白を聞いた日からずっと降っていたのかもしれない。  目を開けると嵐の中、私は一人立っていた。皆が私に謝るが、私は何を許さず、何を許せば良いのだろう。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!