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 これだけ鼓動が速まる感覚はいつぶりであろうか。 中古玩具店のショーケースに並ぶラジコンのバギーに、ふと私の目は留まった。 仰天して息を呑むまでの時間を表現するには、 秒という単位ですら大雑把に感じる。  目の前で買い手を待つのは、少年時代を共にした"ワイルドサンダー"だった。 迷彩柄を基調とした重量感のある車体。 荒野を悠々と横断できてしまう四輪駆動。 そして、シンボルでもある、ボンネットに刻まれた一筋の雷模様。 見間違いではない。青臭い手に掴んだ感触が、 30年経った今もなおガラス越しにありありと蘇ってきた。 車種が同じなどというつまらない話ではない。 帰宅するや否やランドセルを玄関に投げ出し、 公園を思うがままに走らせた、まさしくだったのだ。 若干掠れてはいるものの、私の本名、斎藤国尋(さいとうくにひろ)の頭文字を 綴ったサイン『S.K.』が未だ屋根(ルーフ)に残っていた。
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