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秋本佐江 本格編①
いきつけのマックでダラダラと過ごす姉弟。
「姉ちゃん大丈夫?」
「主語をつけなさいよ」
「秋本さんだよ、ちょっと危ない感じがするけど」
「ああ、確かにLINEは毎日100件くらい来るし、既読つかないとすぐ鬼電して来るわよ」
「困ってない?」
「別に。LINEは通知OFFにしてるし、電話も出れる時しか出ないから」
「厄介な人と知り合いになったよねえ」
「そう?面白いけどな」
「面白い?まあ、姉ちゃんが困ってないならいいけど・・・」
その後もフライドポテトとジュースを交互につまみながら、他愛もない話で時間を潰す2人、十数分が経過する。そして再び悟は秋本佐江の事を話し始めた。
「あの日、秋本さんと出会った時の事覚えてる?」
「私がぶつかっちゃったんじゃない」
「それなんだけどさ。本当に偶然かな?」
「偶然よ、偶然」
「やっぱりあの日の事、不自然な点がいくつもある。まず・・・」
「悟!」
「何⁉話の途中で割り込まないでよ」
「いや・・・後ろ・・・」
「え?」
悟の背後には秋本佐江が立っていた。紫交じりの暗黒のオーラが姉弟には見える。
「悟さん・・・先日はどうも・・・」
低くしゃがれた恨めしい口調で話す佐江。
「・・・どうも」
気まずそうに返答する悟。
「何?あんたたち何か有ったの?」
「何でもありませんよ、悟さんが私の事を嫌っているだけです」
「はい?悟どういう事?」
「別に。相手の事情を配慮せず、自分の都合ばかり押し付ける人が苦手だと言っただけだよ。確かに『嫌い』とは言ってないのに、姉ちゃんに嘘の情報を与える人は嫌いだけどね」
「言った様なものじゃない!」
「言ってませんよ、思ってますけど」
「ちょちょちょ!待てい!!」
晶が二人を制止する。
「2人ともちゃんと説明しなさい。それとルールを言うわよ」
「ルール?」
秋本は不思議そうに聞き返す。
「ええ、今から悟と佐江、両方の言い分を聞くけど相手が話している間は絶対に割り込まない事!説明している側も絶対に感情的になったりましてや怒鳴ったりしない事。この2つのルールを破られた時、私はすぐに帰るしもう2人の話は聞かない、分かった?」
「分かった」
「ええ」
「じゃあ、悟は弟だしね。先に佐江さんから話して」
「うん」
先日、体調不良の晶の見舞いに強引に行こうとした件について、佐江は説明を始めた。が、その説明はやはり独りよがりと言わざるを得なかった。体調不良の晶を心配していた事だけは充分伝わったが、周囲の迷惑や事情には全く配慮が無い。
「分かった、じゃ次は悟ね」
特にリアクションはせずに今度は悟の方に振った。
「うん・・・と言っても・・・そうだね、特に無いかな」
「何も言わなくていいの?」
「姉ちゃんに任せるよ」
「な、なによそれ!私だけ必死こいて馬鹿みたいじゃない!!」
「佐江、割り込むなって言ったでしょ!!」
「う、う、うん、ごめんなさい」
秋本はそわそわせかせかと体をゆすったり爪を噛んだりと落ち着きのない仕草を繰り返す。
そんな秋本に対して晶は話し始めた。
「落ち着いて。私は佐江の気持ちが充分に分かったよ」
「ほんと!!じゃあ・・・」
「待って、だけど全部が全部を受け入れる訳じゃない」
「え・・・・・」
「佐江の行為は重いよ、その自覚はある?」
「私は!!」
「今は重いかどうかを聞いているの?いい?会話が成立しないなら、もう私たちはこれ以上友達を続けられないよ」
「そんな!!だって・・・!!」
「落ち着いて。ちゃんと私の質問に答えて」
晶は佐江の目をじっと見つめる。
「あ、う、うん。自覚あります」
「私はマメに返信とかしないし、電話も嫌い。これは誰に対してもそうなの、私はそういうライフスタイルだと理解して欲しい。これが友達を続ける条件」
「わ、私はいっぱいLINEとかおしゃべりしたいよ・・・」
「直接お話するのは私も好きよ、あ!でも毎日とかも無理!」
「わ、私は・・・私は・・・」
「もう、仕方ないな。じゃあLINEは好きなように送ってきていいよ。でも私は返信しない、既読が返事と思ってちょうだい。これが最大限の譲歩」
「・・・・・・私は・・・」
「納得出来てないみたいね、じゃあ交渉決裂だし、ここでお別れしましょう。悟、帰ろう」
「ままま待って、分かった。それで我慢する」
(我慢しているのは姉ちゃんの方だよ)
悟はもうかなりイライラしていた。しかし姉が上手く事を収めようとしているのを邪魔する訳にはいかないと沈黙を貫いている。
「じゃあ、ちゃんと約束は守ってね」
「う、うん・・・じゃあ、今日はこれから一緒にいてね」
「はいはい、いいよ」
何とか場が収まり掛けようとした時
「佐江!!」
秋本佐江と同じ色の制服を着た男子生徒が3人の前に現れた。
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