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それでもモテる
初夏の風が少し蒸し暑さを感じさせながらも、爽やかな緑の香りを運ぶ。
教室の窓側、一番後ろの席で一人佇む晶。
特別美人という訳では無いが、若き15の乙女が髪をなびかせ校庭を眺める姿は絵になる。
晶の物憂げな表情に思春期の男子生徒は、何を考えているのだろう?と気になってしまう。
また風が吹いて、肩まで伸びた晶の髪がなびく。
表情を曇らせて、一言呟いた。
「・・・チンコ欲しい」
え?え?え?今、あの子「チンコ」って言わなかった?
周囲にいる生徒たちがざわめく。
「あ、晶。今・・・なんか凄い事言わなかった?」
声を掛けて来たのは松井彩、容姿端麗、家柄高貴で成績優秀、友人沢山のいわゆるパーフェクト少女。
「おー、彩!」
「お昼、持って来たわよ」
「私の分も作ってくれたんだよね、さんきゅ!」
「で・・・さっき一人で何言ってたの?」
「いやー、チン・・・」
言いかけて晶は踏みとどまった。
『絶対絶対絶対!学校でチンコって言うなよ!!!』と父、母、悟の3人から強く言われているのを思い出した。
晶は3人の事が好きなので、我慢する事にしている。
「いやー、何でもないよ。何か聞こえた?」
「う、ううん。変な事聞いてごめんね」
「いつもいつも彩には良くしてもらって悪いなあ。なんでここまでしてくれるのか私には分からないよ」
「・・・そんなの、親友だからじゃない」
そう答えると彩は2人分の弁当を机に並べ、箸を晶に渡す。
弁当箱の蓋がパカっと空くと、晶は「うまそー!」と声をあげながら、箸を動かし始めた。
「彩みたいな子が私みたいなのと友達でいるのが不思議で仕方無いんだけど」
もぐもぐと食べながら話す。
「何言ってるの、晶は素敵だよ。ほんとに・・・ほんとに」
「どこが⁉成績はいつも学年トップ3、私はいつも中の下。テニス部主将に対して帰宅部、ボランティアで何度も表彰されているのに対して私はスタンガンでごにょごにょ・・・」
「スタンガン?」
「ななな、何でもない!とにかく彩と私は全然不釣り合いって事よ」
カタ、と彩は箸を置いた。
「なんでそんな事言うの?」
目を潤ませて晶を見つめる彩。
「な、なんでって・・・何となく」
「そんな寂しい事言わないでよ、私、ずっと晶と一緒にいたいの」
「お、おう」
「もう言わないって約束して」
「う、うん、ごめん」
「言葉だけじゃ信用できない」
彩は小指を突き出す。
「え、もしかして」
「指切りげんまんして」
「や、やだよ!恥ずかしい」
「そんな・・・」
また目を潤ませる彩。
「わ、分かったよ!1回だけだぞ」
「うん」
もう恋人同士じゃん。周囲のそんな思いも知らず晶はいつも通りの昼休みを過ごした。
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