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悩める彩①
翌日、彩は昨日の昼休みの事を思い出していた。佐藤夏鈴との事を。
彩は「晶に近づかないで」と言うだけのつもりだったのに・・・ついでに夏鈴の秘密を知ってしまった。
夏鈴は今とても苦しんでいる。そんな夏鈴にとって昨日、晶と偶然出会えた事は久しぶりの良い出来事で、少し気持ちが救われたのだ。
佐藤を晶から排除してしまいたいが、それは心の救いを奪い取る事にもなる。困っている人を見て見ぬふりをする事もしたくない。
それ故に彩は苦悶している。
どうしたらいいのだろう、理想は夏鈴が苦しんでいる要因を排除してから、晶に近づかない様にさせる事。
そんな事は自分には不可能だ、だけど知ってしまったのに何もしないままでいいのだろうか・・・
晶に相談しようか?・・・いや、この悩みを晶に背負わせたくない。
そんな思いを抱えていたので今日は、久しぶりに晶の教室に行かなかった。
部活にも集中できなくて散々だった。
「はああ・・・」
部活帰りの夕暮れ、溜息をついて見上げるのは晶が住むマンション。
晶に会うつもりが無くても、足が晶の家へと進んでいた。
「帰ろう・・・」
しばらく眺めたのち、誰もいないが言葉に出して、自宅の方へと1歩2歩進みだしたその時。
「松井さん?」
帰宅してきた悟と鉢合わせた。
「悟君・・・」
「どうしたの?姉ちゃんならいるけど?」
「いえ!今日はその・・・違うの・・・ちょっと寄っただけ。もう帰らないと」
「そう・・・」
「じゃあね、晶には私が来てた事言わないでね」
どうして?と聞こうしたが、言葉を飲み込む悟。
しかし歩き去る松井の背中が少し寂しそうに映ったのを見て、やはり声を掛ける事にした。
「なんかあった?」
ピタッと彩の足が止まる。
「あからさまに悩んでますって、背中で語られたら気になるよ。しかも姉ちゃんに言いづらい事なんだよね?」
悟に背中を見せたままの彩、しばらく固まっていたがようやく口を開いた。
「悟君・・・聞いてくれる?」
「いいよ、そこの公園で話そうか」
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