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小谷と片付けを終えて培養室へ戻ると、話題はひと段落しているようだった。
ホッとしたのも束の間、前川から明日の話を振られてしまった。
「須藤さん、明日綺麗目の格好でおいでよ」
話のネタになることはわかりきっていたのだが、なにもこんな盛り上がったあとの場で言わないでほしい。
「なになに? なんの予定?」
雑談とはいえ、士長の山上に尋ねられたら答えないわけにもいかない。
「明日の夜、前川さんと街コンに参加するんです」
職場はほぼ女性。専門職のため、部署異動などもなく、お客さまは全員既婚者。この閉鎖空間での出会いのなさに辟易した前川は、勢力的に出会いの場へ繰り出す。そんな前川に、彼氏もおらず下っ端の奈央は絶好のお供なのだ。
「ええっ、須藤さんSP克服したの?」
森本の驚く声に、奈央は曖昧な笑みを返す。
「いやまったくですけどね。昨日も夢に出てきたし」
「うわあ、奴らも毎晩しつこいね。昨日はどんなシチュエーション?」
面白がる顔の森本に、切実な奈央はため息とともに悪夢の詳細を吐き出した。
「部屋が水浸しで、床一面にうごめくオタマジャクシの夢でした」
うははっ、と笑う森本を横目に、山上の声には心配の色がついてきた。
「須藤さん、男嫌いなのにそんな出会いの場に行って大丈夫なの?」
微妙なニュアンスの違いに苦笑しながら、奈央は諦めて会話の矛先を束ねて自分に引き寄せた。
「私は男嫌いじゃなくて、コイタスが苦手なだけですから」
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