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「俺、姉ちゃんに恋していたんだなって、今さら気付いたっす。でも、それを気付かせてくれたのは、姐さんっすから……」  この言葉が私の胸に閊えていたしこりを取り除いてくれた。私も裕貴に恋をしていた。裕貴への思いを恋だとは認めたくなかったけれど、あれは間違いなく恋心だった。 「イイじゃないっすか、お互いなんすから…… 恋人同士じゃなくて、姉ちゃんと弟でも全然良いっすよ。姐さんと一緒に居られるなら俺、何だってイイっす」  長い間、抱え続けていた心の澱が静かに溶け込んでいくように思えた。今日は裕貴の命日。今から五年前、弟はバイクの事故で命を落とした。彼女が出来た、そう囁いた日から一年後、弟はこの世を去った。  彼女が出来たと聞かされた日に喪失感を味わい、私の弟に対する態度は冷たいものに変わった。今思えば、それは嫉妬だった。そんな私の態度に弟は気を揉んでいて…… そしてその一年後、弟の存在まで失ってしまう。  どうして快く交際を祝福してあげられなかったのだろう、そんな後悔がずっと私を苦しめてきた。だけど、それは弟に恋をしていたから……  あの時から、弟の命日がやって来ると、車を走らせて裕貴を偲んできた。思い出のレストランで二人分のカレーライスを頼み、一晩中、車を走らせた。助手席に座る裕貴の幻影を思い描き、夜が明けるまで語り合う。この日が来る度に込み上げてくる弟への思い。そんな日に与えられた思わぬ出会い、その出会いに私は救われた。  私は、助手席に移ってきた彼と共にシートを倒して夜空を見上げた。裕貴のシートに収まる彼が妙にしっくりと来る。私の右手と彼の左手は、しっかりと握られている。 「やっぱり高級車は違いますね、座り心地、抜群っす。俺のロードスターはもうお役ご免かな…… 姐さんの(テール)を追いかけるより、隣で横顔を見つめていたいっす」  彼の明るさが私の心を和ませていく。彼の笑顔の後ろには、まだ裕貴の姿が透けて見える、だけどその姿が消えて、彼を心から愛せる日もそう遠くはない気がする。  静けさの中にパシャパシャと打ち寄せる波の音だけが響く。夜空には満点の星、今夜、雨は降りそうにない。このまま夜が明けるまで、オープンカーのシートに身を埋めて、彼と一緒に過ごそうと思う。弟を偲ぶのではなく、彼と未来を描きながら。
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