2/6
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 信号が赤から青に変わると、勢い良くBMWが走り出す。少し遅れて、僕のロードスターが後を追う。いくつかの交差点を通り抜け赤信号が灯る。そして、再び隣に並んだBMW。  視線を彼女へ投げ掛けると、当たり前の様に彼女の視線が返って来た。  僕は微笑みかける。すると彼女が口元を緩めた。右脳ではなく、今度は胸がざわめく。何かを起こすには、行動を起こさなければ始まらない。その思いが口を動かした。  「気持ちの良い夜っすね……」  少し大きな声で呼びかけた。  「……」  返事は無い。それでも彼女の口元に浮かんだ微笑が僕の心をくすぐる。緩やかな時の流れを望んだ。しかし、こういう時に限って、時は素早く流れていく。いつもなら長く感じる赤信号が、今日はやけに短く感じた。  視線をゆっくりと前方へ戻すと、彼女のBMWが勢い良く飛び出して行った。三度目の偶然を作り出そうと、僕のロードスターが追いかける。もしも、もう一度並ぶ事が出来たら…… 頭の中を妄想が駆け巡った。  交差点が近づく度に、赤信号に変われ、と心で念じてみるのだが、その思いは通じない。いくつかの交差点を通過する。明らかな速度超過で走るBMW、追いかけるロードスター、すると突然、右斜線を走っていた白のレクサスが、僕の前に強引な割り込みをして来た。防ぐ術は無かった。  「ちっ!」  苛立って、思わず舌打ちが出た。割り込んできたレクサスは、加速する事無く、逆にノロノロとスピードを落として、幹線道路沿いのガソリンスタンドへ吸い込まれていった。僕は前方に空いたスペースを一気に詰めようと、慌ててアクセルを踏み込む。もちろんそれは、彼女のBMWに追いつく為だ。しかし無情にも、彼方の信号が黄色に変わってしまう。  交差点を通過していく彼女、止まらざるを得ない僕。  視界から真っ赤なBMWは消え、運命の糸が切れた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!