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 もう一度並んだからといって、何かが起こるとは限らない。いや、きっと何も起こらないだろう。それは分かっているのだが、やり切れない気持ちに苛まれる。ついさっきまで宙を漂っていた気持ちが、沼の底へとドンドン沈んでいく。物事が変わるのは一瞬だ、と言うが、チャンスを失うのも一瞬だった。心が弾んだ分、沈み込みも大きかった。このままどこかへドライブにでも…… そんな浮かれた気分は、急速に萎えていき、何をする気も起きなくなった。  仕方がない。コンビニで弁当とビールを買って、まっすぐ家に帰ろう。そう思って左にウインカーを出した。その時、三度目の偶然がやって来る。  コンビニの駐車場、前向きに停めてある赤のBMWオープンカー、その隣に一台分空いているスペース、僕はそこへ車を滑り込ませた。  車から降りようとしている彼女と目が合った。サングラスを胸元に引っ掛け、彼女はニコリと笑う。意思の強そうな瞳に、僕の胸が音を立てて、ときめいた。  「どうやら、不思議なご縁があるようね」  彼女が先に口を開いた。気高さを伺わせる言葉遣いに心がくすぐられる。  「そうっすね、三度目の正直っすね」  僕がにこやかにそう言うと、彼女は笑った。何かを含んだようなその笑いが、胸にチクリとした痛みを誘う。  僕は年上の女性が好きだ。高卒で就職して、この春八年目を迎えたが、これまで僕と関わってきた女性は全て年上だった。少し上から浴びせられる言葉遣いに僕は萌える。少し年の離れた姉に可愛がられて育ってきたから、と言うのはあるかもしれない。それに姉の友達に、男にして貰った、と言うのも大きいだろう。意図した訳ではないのだが、僕の周りにいる女性は大抵年上だった。そして何故だか僕は、年上の女性に好かれる傾向にある。  そして今、目の前に居る女性もきっと年上だ。胸の中が撥ねているのが分かった。
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