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「可愛い車ね」
「ありがとうございます。古いですけど、まだまだ元気っすよ」
「大切にしているのね」
「僕の相棒なんで」
そう言って照れ笑いを浮かべると、何故か彼女の瞳が潤んでいるように見えた。僕を見る目に、何か特別な感情が込められている気がした。そんな風に思い込める、自分のめでたさに呆れつつも、一方でそれはただの思い過ごしでは無いような予感が漂う。そしてその予感が確信に変わった。
「ねぇ、この後、なにか予定ある?」
「いや何にも…… 弁当買って、家で食べようと思ってたっす」
「お腹、空いている?」
「はい、滅茶苦茶、空いてるっす」
「私も空いているの。丁度いいわ、もう少しドライブして、海の見えるレストランで一緒に食べない?」
想像を遥かに上回る展開の早さ、そして最高のシチュエーションだった。
真っ赤なBMWのオープンカーに乗った魅力的な女性と車を走らせ、食事が出来る。前に付き合っていた彼女と別れたのは二年前…… 高鳴る胸の鼓動を聞いたのは久々だ。
「もちろん、オッケーっす!」
「じゃぁ、私の後ろに付いて来て!」
「ハイ、どこまでも付いて行きます……」
僕の言葉が面白かったのか、それとも言い方が可笑しかったのか、彼女はケラケラと声に出して笑った。その笑いが僕に懐かしさをもたらす。
姉ちゃん……
幼い頃に母を亡くした僕にとって姉は、母の代わりでもあった。五つ年上の姉は、いつも僕の味方で、やんちゃで悪戯ばっかりしていた僕をどんな時でもかばってくれ、姉が作ったカレーライスは僕の大好物で、おかわりをすると、目を細めて嬉しそうによそってくれた。
悲しい時も、寂しい時も、姉に手を握って貰うと、身体がホカホカと温かくなってきて、嫌な事を忘れさせてくれた。そんな大好きな姉を喜ばせたくて、僕は面白い事を言い、おかしな事をして、僕が何をやっても、姉は嬉しそうに笑ってくれた。
もしかしたら、僕が年上の女性に思いを寄せるのは、姉の面影を追っているせいかもしれない。
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